「私は佐々木尽、日本人初の世界ウェルター級王者になる男です」 初防衛したばかりの世界王者に挑戦状を読み上げた度胸と本気度 (2ページ目)
【世界ウェルター級のトップ戦線と佐々木の現在地】
佐々木は王者の実力を直視しつつも世界戦への意欲を見せる photo by 山口フィニート裕朗/アフロ
佐々木はスーパーライト級で戦っていた2021年10月、平岡アンディ(大橋)戦では計量に失敗したうえ11回TKO負けを喫し、初の挫折を味わった。そうやってどん底を知ることで心身ともに成長し、2022年11月以降は7連勝(6KO)。まだ伸びしろを残した23歳の若武者は、世界ウェルター級の頂に手をかけようとしている。過去にシュガー・レイ・レナード、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオといった多くのスーパースターが主戦場としてきたウェルター級で世界王者となれば、日本人としては前人未到の快挙になる。
もっとも、陣営の頑張りで世界挑戦が決まったところで、ノーマンは簡単に勝てる相手ではない。93歳のボブ・アラム・プロモーターが率いるトップランクは多くの有望株を抱えており、そのなかでもノーマンは必ずしも目立つ存在ではなかった。2024年3月のジャネルソン・ボカチカ(アメリカ)戦では初回にダウンを喫するなど、しばらくは地味な存在であり続けてきた。
ただ、度重なる両拳の故障もついに癒え、迎えたここ2戦は圧巻の連続KO勝ち。年齢的にも伸び盛りであり、テレンス・クロフォード(アメリカ)、エロール・スペンス(アメリカ)の離脱により層が薄くなったウェルター級で一気に注目株として浮上してきた。そんなノーマンが来日戦を望んでいるとすれば、ジャパンマネーへの期待感と、今の佐々木ならやりやすいと見てのことに違いない。
ノーマン対佐々木戦が早い段階で実現したとしても、実際には「王者断然優位」との予想が出されることだろう。威勢のいい言葉は多くとも、現実を直視する聡明さも持った佐々木は、もちろんそういった現実は理解している。
「すばらしいチャンピオンだと思っています。知名度以上に強いので、日本に来てくれるのだとしたらありがたいです。世界ウェルター級の4人の王者のなかでもエニスとノーマンはすごく強いと思っているので、だからノーマンに勝てば本物の世界ウェルター級チャンピオンと自信を持って言える。それだけの選手ですよね」
たとえ現状では相手のほうが実力上位だとしても、ウェルター級のような激戦階級でチャンスがあるのであれば、勝負をかけなければならない。少なくとも、佐々木には序盤のラウンドに何かを期待させるだけのパンチ力とスピード、そして今回もリング外であらためて示した度胸のよさがある。あとは始めたばかりのアメリカ合宿のなかで、少しずつでも経験値を積み重ねることができれば......。
「ノーマンは黒人特有のバネ、スピード、パワーがあり、そういう選手はなかなか日本にいません。だからベガスにいる間に身体能力が高くて強い選手とスパーリングをやって、慣れていきたいですね。(今年の目標は)日本人初のウェルター級世界王者になることです。待ってろ、世界!」
ラスベガスで挑戦状を読み上げたアピールは、まだプロローグにすぎない。たとえ世界挑戦の舞台が日本であっても、佐々木がウェルター級を舞台に追い求めるのは、ひとつのアメリカンドリーム。日本ボクシング史上の"オンリーワン"になるための戦いが、まもなく始まろうとしている。
著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう
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