中谷潤人が振り返る「少し力みがあった」西田凌佑戦 井上尚弥超えへ「異常なことをやっていかないと到達できない」
【「力みがあった」試合、2ラウンド目にはアクシデント】
「西田選手を驚かせる意味で、『試合開始のゴングからパンチを思いっきり振っていけ!』という指示が出ました。打たれずに前に出る繊細な駆け引き、相手のパンチをもらわずに攻撃するという意識でしたが、少し力みがありましたね」
珍しくアグレッシブに西田凌佑(右)を攻めた中谷潤人 photo by Hiroaki Yamaguchiこの記事に関連する写真を見る
WBCバンタム級タイトル4度目の防衛戦、及びIBF同級王者・西田凌佑(六島)との統一戦における中谷潤人(M.T)は、立ち上がりから非常にアグレッシブだった。LAキャンプで繰り返した左の打ち下ろしからの右アッパー・ダブルを繰り出し、ペースを握る。西田はガードを固めていたが、その外から、中からと容赦なくアゴへのアッパーが火を噴く。
1、2ラウンドは問題なく西田を上回った。ただ、いつもの中谷のスマートなボクシングとは異なり、荒々しく、その姿には気負いが感じられた。
全勝中の世界チャンピオン同士と言っても、30戦全勝23KOの中谷に対し、西田はその3分の1のキャリアしかなく、10の白星のうちノックアウトはわずかに2。ボクシングの本場であるアメリカ、隣国メキシコのジャーナリストやファンから熱い視線を浴びる中谷とは、実績もスケールも雲泥の差だ。
だが、西田もひるまずに応戦し、世界王者としての矜持を見せる。3回の攻防ではジャッジ2人が、続く4ラウンドは3名全員が、IBF王者にポイントを与えた。
試合を終えてから約5時間後、中谷はこう述懐した。
「実は、2ラウンド目ぐらいに左拳を痛めてしまったんです。左フックをやや外側から打ち、ちょっと当たりどころが悪かったんですよ。それで、左ストレートが出し難くなりました。
また、3ラウンド前のコーナーからの助言が『接近しろ』でした。近づけば、西田選手の距離です。あちらは気持ちが乗って手数が増え、僕が受けてしまう場面が生じましたね。クロスレンジで打ち合う時、パンチをもらわずに攻めたかったので、そこは反省点です。
彼のボディを打って、左に回れとも言われたのですが、パンチを出した後、止まってしまった局面もありました。西田選手は手が出ていたので、『見栄えがよくなかったな』っていう気持ちはあります」
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著者プロフィール
林壮一 (はやし・そういち)
1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。