第75代横綱・大の里はどこまで強くなるのか? 偉大な歴代横綱の歩みと比較しながらその未来像を探る
横綱・大の里は歴史に残る力士としてどのように実績を積み上げていくのか? Photo by JMPA
新入幕から史上最速の早さで大相撲の最高位に上り詰めた大の里は、今後どのような実績を積み、横綱道を突き進んでいくのだろうか。
同じ石川県出身、同じ大卒力士で横綱に上り詰めた先輩・輪島を目標にしてきたというが、大鵬から白鵬まで、歴史に名を刻んできた大横綱の歩みと比較しても、"唯一無二"の存在となる魅力が秘められている。
【横綱に至るまでに見せた短期の修正力】
初の綱取りともなれば、多かれ少なかれ重圧を背負うものだが、先場所の大の里にそんな姿は微塵も感じられなかった。
「4月の巡業で『横綱』、『綱取り』という言葉をたくさんかけてもらった分、場所前に『綱取り』と言われても耳が慣れていたので、何も考えずに場所を迎えることができました」と連覇を成し遂げ、横綱昇進も確実にした夏(5月)場所千秋楽の優勝インタビューでは、事もなげにそう言いきった。
しかし、記録ずくめのスピード出世で横綱に上り詰めた"超怪物"も、プレッシャーに圧し潰されたこともあった。「大関という地位のプレッシャーに負けた2場所だった。思うような相撲が取れなかった」と本人も認めているように、昨年九州場所の新大関場所から9勝、10勝と優勝争いに絡むことなく平凡な成績に終わった。だが、"看板力士"としてすっかり慣れた大関3場所目からは伸び伸びと自分の相撲を取り切っての連続優勝。夏場所後、第75代横綱に推挙された。
入門から所要13場所での昇進は、輪島の21場所を大きく上回り、戦前の羽黒山、照國の16場所をも抜く史上最速。新入幕から所要9場所も年6場所制となった昭和33(1958)年以降では、大鵬の11場所を抜いて史上1位のスピード昇進となった。入門から負け越しなしで角界最高位に駆け上がったのも大の里が史上初だが、これまで壁にぶち当たった経験がないわけではなかった。
日体大1年で学生横綱となり、大学3年から2年連続でアマチュア横綱に輝くなどアマ14冠のタイトルを引っ提げ、令和5(2023)年夏場所、"超大物ルーキー"として幕下10枚目格付け出しで角界入りするも、プロデビュー戦は黒星だった。幕下2場所目の翌場所も3勝3敗まで追い込まれ「ご飯も食べられないし、しんどい状態だった」とデビュー2場所目にして、早くも負け越し危機に追い込まれたが、最後の相撲で辛うじて勝ち越しと新十両を決めたのだった。
昨年春(3月)場所の入幕2場所目には初優勝のチャンスが訪れ、千秋楽までその可能性を残したが、賜盃は新入幕の尊富士にさらわれた。
「だいぶ優勝ということを意識してしまったんで、今回はまったく考えてなかった」と終盤で優勝がちらついたことを反省し、翌夏場所での初優勝につなげたのだった。"100年に一人"と言われるほど、体格と素質に恵まれた超逸材だが、苦い経験から課題をいち早く見つけ出し、短期間のうちにこれを克服して次に生かす。入門以来、短期間ではあったが、その繰り返しで番付を駆け上がっていった大の里は、極めて高い修正能力の持ち主だと言えるだろう。
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著者プロフィール
荒井太郎 (あらい・たろう)
1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業。相撲ジャーナリストとして専門誌に取材執筆、連載も持つ。テレビ、ラジオ出演、コメント提供多数。『大相撲事件史』『大相撲あるある』『知れば知るほど大相撲』(舞の海氏との共著)、近著に横綱稀勢の里を描いた『愚直』など著書多数。相撲に関する書籍や番組の企画、監修なども手掛ける。早稲田大学エクステンションセンター講師、ヤフー大相撲公式コメンテーター。