第75代横綱・大の里はどこまで強くなるのか? 偉大な歴代横綱の歩みと比較しながらその未来像を探る (3ページ目)
【歴代の大横綱に迫る潜在能力が魅力】
24歳11カ月で横綱に昇進した大の里は4回の優勝を果たしているが、21歳3カ月で横綱になった大鵬は、25歳になる前にすでに16回の優勝。大関から横綱2場所目にかけての4連覇と、その後1度目の6連覇を遂げている。21歳2カ月の最年少で横綱に昇進した北の湖も11回の優勝。25歳になる昭和53(1978)年は5連覇中と円熟期を迎えていた。
26歳と大横綱としてはやや遅い年齢で昇進した千代の富士は、35歳11カ月で引退するまでに31回の優勝を成し遂げているが、初優勝は25歳の時だった。22回優勝の"平成の大横綱"貴乃花は史上最年少の19歳5カ月で初賜盃を抱くと25歳未満での優勝は大鵬を上回る17回としたが、26歳になった直後の平成10(1998)年秋場所、連覇で優勝回数を20回の大台に乗せて以降は休場が目立ち、賜盃から遠ざかるようになった。
モンゴルから来日し、明徳義塾高(高知)を経て18歳で初土俵を踏んだ第68代横綱・朝青龍は、25回の優勝を果たし29歳で土俵を去るが、25歳未満での優勝回数は13回、モンゴル出身2人目の横綱となった白鵬は12回としている。
大の里は今後、優勝回数をどこまで伸ばすのか。23歳になる直前という遅いプロ入りは優勝20回超の過去の大横綱と比較するとハンデに映るかもしれないが、入門してまだ2年あまり。幕内在位はまだ9場所にもかかわらず、すでにV4を達成。過去の大横綱でも白鵬を除けば、幕内に定着して10年余で"寿命"を迎えることを鑑みれば、6月7日で25歳になった大の里も、あと10年は綱を張る可能性は十分秘めていると言える。
大きなケガがなければ優勝回数は今後、加速度的に伸びることも予想されることから、20回はおろか30回の大台に乗るのも夢ではないかもしれない。
「成長途中なので、まだまだ強くなると思います」と師匠の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)はまな弟子に大きな期待を寄せる。角界の頂点に立ったが、持てる素質や才能を出しきったとは言い難い。横綱として絶対的な型を身につけるのもこれからだ。
"唯一無二"の道を歩み出した第75代横綱は果たして、どこまで強くなるのか。全く想像がつかないところが大の里という力士の最大の魅力なのである。
【Profile】
大の里泰輝(おおのさと・だいき)/平成12(2000)年6月7日生まれ、石川県河北郡津幡町出身/本名:中村泰輝/能生中―海洋高(以上、新潟)―日本体育大/主なアマチュア戦績:学生横綱(2019年)、アマチュア横綱(2021、22年)/所属:二所ノ関部屋/初土俵:令和5(2023)年5月場所、初十両:令和5(2023)年9月場所、新入幕:令和6(2024)年1月場所、新三役:令和6(2024)年5月場所、大関昇進:令和6(2024)年11月場所/横綱昇進(第75代):令和7(2025)年7月場所
大の里を育てた〈かにや旅館〉物語
少年たちの夢を支え育む
相撲部屋を舞台にした感動のノンフィクション
新潟県糸魚川市能生(のう)に、全国の相撲少年が集まる寮〈かにや旅館〉がある。海洋高校相撲部の田海(とうみ)哲也総監督が経営していた元旅館だ。そこが実質、相撲部屋となり、続々と未来のスター力士を輩出している。
パワハラ、いじめ、不登校など、難しい問題が渦巻く中、田海夫妻が彼らの心身の成長に深くかかわり、そのおかげで生徒たちは練習に打ち込めていた。大の里をはじめ白熊、欧勝海、嘉陽ら多くの力士が巣立っていった〈かにや旅館〉で繰り広げられる、力士育成の物語。
著者プロフィール
荒井太郎 (あらい・たろう)
1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業。相撲ジャーナリストとして専門誌に取材執筆、連載も持つ。テレビ、ラジオ出演、コメント提供多数。『大相撲事件史』『大相撲あるある』『知れば知るほど大相撲』(舞の海氏との共著)、近著に横綱稀勢の里を描いた『愚直』など著書多数。相撲に関する書籍や番組の企画、監修なども手掛ける。早稲田大学エクステンションセンター講師、ヤフー大相撲公式コメンテーター。
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