赤井沙希、引退試合で爆切れ大号泣 初めて見た両国国技館の天井、仲間からの思わぬ言葉 (4ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 試合後の引退セレモニーで、坂口と岡谷に花束をもらった。岡谷は泣きながら握手をしてきたが、坂口は握手をせず一礼だけした。

「坂口さんには、今もちゃんと挨拶できていないんです。私がサイン会をやって帰ってきた時も、もういなくなっていた。『なんとか自分の足でリングから降ろしてあげなければいけない』って、すごい責任を感じてくれていて。私なんて手が掛かるし、変な出来事も多いし、一番神経を使った後輩だと思います」

【365個の紙テープに込められた思い】

 試合が終わり、急いでサイン会に向かわなければいけなかった。マスコミもコメントを欲しがっている。慌てていた時、坂口に「今、時間ある?」と呼び止められた。「どう見てもないやん」と思ったが、「どうしました?」と聞くと、「岡谷から話がある」と言われた。告白されるのかと思い、ドキドキしながら岡谷の話を聞いた。

 赤井さんには今まで本当にお世話になりました。今の自分があるのは赤井さんのお陰です――。

「私は道に乗せてあげただけで、そこを開拓していったのは自分なんだから、自信を持って。あと、私が聞きたいのは『俺がいるから大丈夫。任せてください』っていう言葉だなって言ったんです。そうしたら『俺に任せてください』と言われて、『すぐ言うやん!』って(笑)。そういうところが本当に可愛い」

 そして、岡谷の口から思わぬ言葉が飛び出した。「赤井さんがどう思われるかわからないんですけど、すごく大事にするので、ケツァル・コアトルを使わせていただいてもよろしいでしょうか?」――。

「えー! いいに決まってるやん! 『行きまーす!』って言うの? そこは全然任せるから、という感じでした。岡ちゃんは私の性格とか闘う魂とか、価値観を理解してくれているので、『どうぞどうぞ』と」

 最後に紙テープを浴びた時、「なんて私のプロレス人生は愛に溢れていたんだろう」と思ったという。DDTもファンも赤井自身も、時間が経てば変わっていく。しかし、この10年間を見届けてくれたファンの思い、彼らからもらった感情は、一生忘れることはない。この思いがあれば、これからの人生でなにがあってもやっていける、と赤井は思った。

 ファンが用意した紙テープの数は、365個。365本の薔薇の花言葉は、「あなたが毎日恋しい」「決して忘れることのない愛」――。赤井はこれからDDTの裏方に回る。私たちは赤井沙希というプロレスラーがいたことを決して忘れることなく、これからも彼女を愛し続けるだろう。

【プロフィール】
赤井沙希(あかい・さき)

1987年1月24日生まれ。京都府出身。父はプロボクサーで俳優の赤井英和。2013年8月13日、DDTプロレスリング両国国技館大会でプロレスデビュー。2014年、東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」新人賞を女子プロレスラーとして初めて受賞。2023年11月12日、DDT両国国技館大会で引退。獲得タイトルはKO-D6人タッグ、全日本プロレスTV認定6人タッグ、TOKYOプリンセスタッグ、アイアンマンヘビーメタル級など。
X:@SakiAkai

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