赤井沙希が明かす「引退ロード」の裏側 試練の連続でパンクし、10年間で初の欠場も考えた

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

赤井沙希 引退インタビュー 前編

 今年5月24日、プロレス界に衝撃が走った。DDTプロレスリングの赤井沙希が記者会見を開き、11月12日、両国国技館で引退することを発表したのだ。

 赤井は、元プロボクサー赤井英和の前妻の娘。モデル、タレントとして活動していたが、DDT高木三四郎社長にスカウトされ、2013年8月18日にDDT両国国技館大会でプロレスデビューした。

 デビュー当時、壮絶なバッシングに遭った。「タレントのくせに」「細い体でプロレスやれんのか」――。プロレスファンから毎日のように誹謗中傷のDMが届き、女子プロレス団体からも嫌われていたという。しかし、ひたむきに闘い続ける彼女を見て、いつしか風向きが変わった。この10年間で、赤井がプロレス界に持ち込んだ"美意識"が浸透。その功績は大きく、だれもが彼女の引退を惜しんだ。

11月12日にプロレスラーを引退した赤井沙希 photo by 林ユバ11月12日にプロレスラーを引退した赤井沙希 photo by 林ユバこの記事に関連する写真を見る

【引退の報告に、DDTの選手たちは放心状態】

 引退の日程を決めたのは今年2月。5月の記者会見まではファンに嘘をついているような気持ちになり、ずっと苦しかったという。

「地方大会で『沙希ちゃん、また来年も来てね!』と言われて、『うん』と言っていたけど、『来年は私いないんだよなあ』とか。でも、時間がどんどん過ぎていって、引退会見ではどうやったらみんなに私の気持ちを真っ直ぐ理解してもらえるか、慎重に言葉選びをしました」

 記者会見当日、オフだったにもかかわらず、DDTの社員や選手が見守りに来てくれた。緊張が止まらない......。試合だと思うことにして、気合を入れるため「ハッ!」と声を出し、ストレッチをしていたら、入場曲が流れた瞬間にひっくり返った。しかし、さすが現役プロレスラー。ちゃんと受け身を取って後転したという。

「坂口(征夫)さんたちが『大丈夫か!』って来てくれたんですけど、みんな私じゃなくて、ドレスの心配をしてたんですよ。『そっちかよ!』とか言いながら、慌てて会見場に入りました。しっとりした感じで(笑)」

 会見は厳かに行なわれた。「私は枯れて朽ちていく花ではなく、美しいまま散る花でいたい」――。マスコミの質疑応答で「ファンの方にひと言ありますか?」と聞かれた時、「ついに引退を知られてしまった」と心がざわついた。傷つけたんじゃないかな、悲しい思いをさせてないかな、ショックを受けているんじゃないかな......。ファンの心情が気になったが、SNSを見る暇もなく、翌日には試合のためシンガポールへ旅立った。

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