赤井沙希が明かす「引退ロード」の裏側 試練の連続でパンクし、10年間で初の欠場も考えた (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 2年4カ月前と比べて、技が増えたわけではない。ファイトスタイルが変わったわけでもない。しかし、赤井は見違えるように強くなっていた。結果は負けてしまったが、ミックスドマッチの概念を超え、人がここまで強くなれること、プロレスでここまで輝けることにただただ驚かされた。

「場外でマットもないところに叩きつけられた時、全身が痺れたんですよ。私、腰骨が出ているので、骨が直接当たってしまったんですよね。あの瞬間、『プロレスラーは肉をつけろって、こういうことか!』と思いました。ずっと『もっと体をデカくしろ』と言われてきたけど、引退直前に身をもってその意味を知りました」

【タッグパートナー荒井優希と最初で最後のシングルマッチ】

 東京女子プロレスのリングで赤井とタッグを組んでいた、SKE48の荒井優希。赤井も荒井もプロレス大賞新人賞を受賞しており、同じ京都出身。タレント活動をしている共通点もあり、2022年4月にタッグチーム「令和のAA砲」を結成した。

『赤井沙希・自伝』の中では「できれば対戦したくない」と綴っていたが、10月27日、東京女子プロレス後楽園ホール大会でシングルマッチが組まれた。「優希ちゃんの顔は蹴れない」と思っていた赤井だが、この日、荒井の顔面を容赦なく蹴りまくった。

「これまでアジャ(コング)さんとか、いろんな先輩が厳しくしてくれたから、私は今の自分になれた。だから優希ちゃんを試すじゃないけど、『これくらいでひっくり返ってたら、どうすんの?』というつもりで試合しました。リスペクトも込めて」

 赤井はずっと、荒井に「どんなにやられていても、相手の目を見なさい」と言ってきた。この日、荒井は赤井の目を見て睨みつけた。赤井の技「新人賞」をぶつける一幕もあった。荒井の成長と覚悟を感じて、嬉しかったという。

「最後はケツァル・コアトルで勝ちました。正直、出さなくても勝てたと思うんですけど、自分の一番大きいフィニッシュムーブをプレゼントしたかった。もう、彼女にそれを味わわせることはできなくなるので」

 ケツァル・コアトルを荒井に伝授することはしなかった。背負わせてしまうことで、身動きを取れなくするのは可哀想だと思ったからだ。荒井のブーツを初めて食らって、あまりの痛さに驚くとともに嬉しくなった。荒井には好きなようにやりたいことだけやってほしいと、赤井は願っている。

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