赤井沙希、引退試合で爆切れ大号泣 初めて見た両国国技館の天井、仲間からの思わぬ言葉 (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 温厚な赤井しか知らない若手選手たちは驚いて、ジャングルの蟻のように控室を走り回った。タッグパートナーの坂口征夫に謝られたが、「坂口さんは悪くないっしょ! 会社が悪いんでしょ!」と、また怒りが爆発した。試合にも向き合えていないし、こんな状態ではセレモニーで伝えたいことも伝えられない。「もういい、手紙書く!」と、段ボールの上で手紙を書き始めるも、怒りで手が震えて字が書けない。もう何もかもダメだと思った。

 そんな時、声を掛けてきたのはクリス・ブルックスだった。「落ち着け。深呼吸して。今起きたことはしょうがないし、赤井は8試合目でしょ。今は3試合目だ。まだ時間はたっぷりある。とりあえず深呼吸して。化粧がぐちゃぐちゃだから直して、手紙を書くんだったら落ち着いて書く。やれることをやろう。赤井は今日引退するんでしょ。見せたいものをちゃんと見せられるように、お客さんのために頑張ろう」――。

「涙の種類がそこで変わって、またボロボロ泣きました。クリスがいなかったら、ずっとブチ切れたままでパニックでしたね。ひとりでも多くのファンの方に会いたかったから、サイン会はいいんですけど、会社のいろんな人がいろんなことを私ひとりに言ってきて、密着の人が私目線で見ていて、びっくりしてました」

【10年間で見たことがなかった景色】

 試合前、バックステージで控えていると、高梨将弘とKUDOがやって来た。かつて高梨、KUDO、坂口は「酒吞童子」というユニットを組んでおり、赤井は酒吞童子の妹分として彼らに可愛がってもらっていた。ユニットの絆を知ったのは、酒吞童子がきっかけだったという。

 ふたりが来た意味はわかる。しかし、深く考えると泣き崩れてしまうと思い、「頑張ります」とだけ言った。「普通の試合だと思おう」と考え、煽りVTRが流れている間はずっと耳をふさいだ。

「いつもより笑顔でいようと決めていました。みんなが私の言葉を受け止めて見送ろうとしてくれているのに、私がメソメソしていたら見送れるものも見送れなくなると思ったから。いろんな思いがあるけど、嘘でも笑おうと思いました」

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