赤井沙希、引退試合で爆切れ大号泣 初めて見た両国国技館の天井、仲間からの思わぬ言葉 (3ページ目)
引退試合はシングルマッチではなく、6人タッグマッチを選んだ。最後は赤井が所属するユニット「イラプション」(赤井、坂口、岡谷英樹)と一緒に闘いたかったからだ。対戦相手は、丸藤正道&山下実優&樋口和貞。丸藤とはプロレスラーになる前から親交があり、山下とは団体は違えど同期。樋口はかつてイラプションに所属していた戦友だ。
試合が始まり、山下に「泣くな」と言われた。そこでいつものスイッチが入った。
「いやいや、泣いてないし! 『なにこいつ、勝手なフィルターで見とんねん』と思いました。そう思うくらい余裕はありましたね。試合が始まったら、『これが最後』という思いではやっていなかったです。最後という想いも乗っけると、普通じゃいられなくなっちゃうから」
丸藤の強烈なチョップを食らって、リングに倒れ込んだ。丸藤は試合前、「恐怖を植えつける」と言っていたが、赤井は「恐怖心はなかった」という。凄まじいチョップだったが、彼女はこれまで男子レスラーのチョップを嫌というほど受けてきた。だてに10年間、男子プロレス団体で生きてきたわけではない。
「いつも相手の技を受けきろうと思っていますが、いつも以上にそう思いました。最後だからという意識は、どこかにあったのかもしれません」
最後は山下との一騎打ち。山下のスピンキックが後頭部に入り、そこから記憶がないという。気づいたら山下が自分の上で号泣していた。そうか、試合か。ああ、私は負けたんだなと思った。
引退試合に向けて、いろいろな人の引退試合を観た。もちろん引退する人も頑張らないといけないが、引退試合の相手もいろいろなものを背負わなければいけない。号泣する山下に「重荷を背負わせちゃってごめんね」と謝った。
赤井が倒れ込んでいると、坂口と岡谷が手を差し伸べてきた。見上げると、ふたりは泣いている。泣かないで。ふたりは立派に送り出してくれたから。そんなふたりに悲しい思いをさせたくないから。だから泣かないでと、繰り返し伝えた。
「ふと天井が見えて、『両国国技館の天井ってこんな形なんだ』と思いました。この10年間で見たことがない景色でした。ずっと走り回っていたけど、『ここって、こうなってるんだ』って。それはすごく鮮明に覚えています」
坂口に「どんなに体がしんどくても、負けたとしても、自分の足でリングを降りなさい」と言われ続けてきた。坂口と岡谷に体を起こしてもらい、どうにかお辞儀をして、自分の足でリングを降りた。
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