【SVリーグ男子】髙橋藍が振り返る優勝までの道筋 「ギアが上がるのを感じました」
SVリーグ男子初代王者に輝いたのは、サントリーサンバーズ大阪だった。
サンバーズの髙橋藍は、チャンピオンシップのMVPに選ばれている。準決勝のウルフドッグス名古屋戦、決勝のジェイテクトSTINGS愛知戦と、大接戦となった試合で、勝敗を分けるプレーをやってのけた。驚くべき胆力だった。
「負けず嫌い」
髙橋本人はよく言うが、それは生半可なものではない。負けを嫌う、というよりも、憎んでいるのだろう。勝利に飢えることで、劣勢のイメージを失わない。最悪に近い状態を想定し、そこから立ち直れる。勝負への執着だけでなく、冷徹さも備えているのだ。
SVリーグチャンピオンシップのMVPに選ばれた髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)この記事に関連する写真を見る 決勝のSTINGS戦1試合目、髙橋は1、2セットと、本来の調子ではなかった。3セット目途中には一度、ベンチへ下げられている。しかし、彼は腐ったりしない。極めて論理的なアプローチで、自らのメンタルを再起動した。
「向こうがどのようにブロックするのか、どうブロックをしないといけないのか、冷静に見るきっかけになりました。コートでは冷静さを欠いてしまうこともあるので。1、2セット目はサーブで崩されていることも多く、対応策を考えていました。1回、コートの外に出たからこそ、フォーカスし直すことができましたね」
禍を転じて福となす、といったところか。4セット目途中から再びコートに入ると、プレーをアジャストさせていった。そしてファイナルセットはレシーブ成功率が向上。勝利の瞬間は、彼が巧みなサーブで崩し、ドミトリー・ムセルスキーがシャットアウトした。
最近はスポーツ界でも、ビジネスの世界から入ってきた「マインドセット(心の持ち方、心構え)」という用語を使うことが多くなってきた。それは有用だが、相手があるボールゲームでは、適応できないと意味がない。セットされた状態のまま、アップデートできないとバグを起こす。状況を受け入れ、形を変えていく柔軟さこそが欠かせないのだ。
コートにおけるメンタルの強さを表現するなら、「しなやかさ」「撓(たわ)み」のほうがふさわしい。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。