ラグビー日本代表の元通訳が明かす「ブライトンの奇跡」の裏側 エディーHCから「ちゃんとPGを選択しろと伝えたのか!?」 (2ページ目)
──横浜キヤノンイーグルスの今後がますます楽しみです。さて、ここからは前編でも通訳就任の経緯を話していただいた日本代表についてあらためて振り返っていただきます。佐藤さんはエディー・ジョーンズ、ジェイミー・ジョセフ両HC(ヘッドコーチ)という世界的な指導者の下で約5年間、通訳を務めました。
「共通して言えることは『同じ絵を見ること』が何よりも大事だということです。HCと常に同じ絵を見ている必要がある、ということですね。チーム内ではよく使われるフレーズですが、形式的ではなく本当の意味で同じ絵を見ないといけないと僕は思っています」
──エディーさんとは180日間という短い期間でも同じ絵を見ていたわけですね。
「エディーさんの要求は常に高かったですし、全ての場面で勝つための取り組みをされていました。朝から寝るまで、起きている時間はずっとラグビーのことを、さらに相手にどう勝つかを考えているので、その絵を一緒に見ることができるかどうかがとにかく大事でした」
──前編ではエディーさんがかなり激しい言葉を使う、という話がありましたね。
「絶対にその言葉を忠実に選手へ伝えるよう意識していました。ここでは言えないような言葉もたくさんありましたが、それをオブラートに包んで選手に言ってしまったらエディーさんの真意が伝わりません。どんな言葉でも真顔でそのまま伝えていました」
──そして2015年のワールドカップ、今なお語り継がれる「ブライトンの奇跡」と呼ばれる歴史的な試合となった南アフリカ戦を迎えます。3点ビハインドの後半39分、敵陣での相手ペナルティでエディーさんは同点狙いのPG(ペナルティゴール)を指示しましたが、ピッチの選手たちはトライを狙いに行きました。
「『ちゃんと(PGを選択しろと)伝えたのか!?』とエディーさんに言われ『はい』と答えましたが『たしかにショット(PG)って伝えたよな?』と内心不安でした(笑)。エディーさんからはその時に限らず『ちゃんと伝えたのか?』とよく言われていましたね」
──最後はマイボールスクラムからフェーズを重ね、WTB(ウイング)カーン・ヘスケス選手が逆転トライを決めました。あの瞬間はいかがでしたか?
「トライの瞬間は何が起きたのかすぐに理解できず、本当に信じられませんでした。正直よく覚えていないのですが、たしかな記憶としては、後半から周りのお客さんによるジャパンコールがどんどん大きくなり、鳥肌が立ったのを覚えています。また、選手が突き刺さるようなタックルなどいいプレーをするたびにエディーさんの目がウルウルしていたのも記憶に残っています」
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