世界卓球で注目の15歳、長崎美柚の
折れかけた心を支えたもの (4ページ目)
数日後、一通の封書が岸田クラブに届いた。全日本選手権を前に年賀状を送ってきたばかりの長崎からだった。
《全日本選手権での応援ありがとうございました。感謝の気持ちを年賀状では書ききれないので手紙にしました》
そんな書き出しで始まる手紙には、これまでの支えに対する感謝と、これからの抱負が丁寧な文字で書かれてあった。
シンデレラガールの原風景と未来
平日の午後4時を過ぎると、近所の小学校に通う子どもたち約30人が岸田クラブに集まってくる。
更衣室とミーティングルームを兼ねた小さな部屋の片隅に、レンガをデザインした発砲スチロール製の踏み台が置かれているのに気づく人は少ないかもしれない。
「美柚がまだ小さかったとき、岸田クラブで練習できない日は、車で卓球台のある練習場を探し回りました。バンビ用の低い卓球台が置いてあるところが少なく、この踏み台をいつも車のトランクに積んでいたんです」
村守がそう振り返ると、代表の岸田も「あの頃はみんなが美柚を強くしようと必死でした。今も小さな子どもがボールを打つときに踏み台を使うことがありますが、そのたびに当時のことを思い出します」と言葉をつなぐ。
フォアハンドとバックハンドを振るときの足の動きが、それぞれ太い矢印で描かれた踏み台には、利用者であるヒロインの名前も書き込まれている。
劉楽コーチからの電話で15歳の愛弟子が世界卓球2018の代表に大抜擢されたことを知った時、村守は「まさか」という驚きと、「やはり」という感情が重なり合ったという。
「5歳で初めてラケットを握った美柚を見て私たちが感じた将来性を、10年後に日本代表のスタッフの人たちも同じように感じてくれたのだと思います。まだまだ石川佳純選手のようなオーラを出すことはできませんし、力的にも足りない部分はあると思いますが、さらなる成長につながる何かを掴んでほしい。将来はオリンピックで金メダルを獲ってほしいという夢はありますが、一時的な活躍ではなく、日本代表の中心選手として長くプレーできる選手になってほしいですね」
世界卓球が開幕したスウェーデン・ハルムスタッドのコートは、その第一歩として人々の記憶に刻まれるだろうか。
【書籍紹介】
数々の女子卓球最年少記録を塗りかえ、いま、日本の卓球ブームを支える17歳のふたりの、ライバル&親友物語。
ふたりが母親の指導で卓球を始めたのは3歳のときでした。それがいまや、平野美宇はアジアチャンピオンに、伊藤美誠は五輪メダリストに成長しました。小さいころのなかよしエピソードから、2020年の東京オリンピックに対する思いまで、いまもっとも注目を浴びる女子アスリートのふたりに、ズームイン!
【目次】
まえがき リオデジャネイロから東京へ
第一章 伊藤美誠――きびしい「訓練」
第二章 平野美宇――「みうはみう!」
第三章 ともだちだけどライバル
第四章 世界をおどろかせた「みうみま」ペア
第五章 伊藤美誠――銅メダルという宝物
第六章 平野美宇――リザーバーからの飛躍
あとがき がんばれ! ピンポンガールズ
【著者プロフィール】
城島充(じょうじま・みつる)
ノンフィクション作家。産經新聞社会部記者を経てフリーに。『武蔵野のローレライ』で文藝春秋Numberノンフィクション新人賞、『拳の漂流』(講談社)でミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞受賞。他の著書に『ピンポンさん』(第39回大宅壮一ノンフィクション賞最終候補作・講談社)『にいちゃんのランドセル』(講談社)など。
【発行】講談社
【価格】1200円+税
詳しくはこちらへ>>
4 / 4