世界卓球で注目の15歳、長崎美柚の折れかけた心を支えたもの (2ページ目)
新たに生まれた"チーム美柚"
「エリートアカデミーが世界のトップを目指すために最高の環境であることは、彼女自身が最も強く理解していました」と、村守は振り返る。
「でも、その環境の中で周囲とのコミュニケーションがうまくとれず、自分がいるべきポジションがしっかり定まっていなかったようです。周囲がみんな強い選手ばかりなので、そのプレッシャーもあったと思います」
同じことをエリートアカデミーや日本卓球協会のスタッフたちも感じていたのだろう。強化本部長を務める宮崎義仁の勧めで、村守はアカデミーの正式なサポートメンバーとして長崎を支えることになった。
かつてのようにプレーの指導をするのではなく、長崎を担当する劉楽コーチやフィジカルやメンタルを担当するスタッフたちとの間に入り、かつて岸田クラブで機能した"チーム美柚"のように、関わるすべての人間の気持ちがひとつになるように苦心した。
「うれしかったのは、みんなが美柚の才能を高く評価していてくれたことです。劉楽コーチが『この子は、中国選手と同じ感覚で戦える選手だ』と言ってくれたときは、岸田クラブでの指導が間違っていなかったと思いました」
プレースタイルの土台を築いてくれた恩師が身近にいてくれることで、心に余裕が生まれたのだろう。小学生の頃から「一番になることが好きだった」という少女は、2016年8月の全国中学校卓球大会で復調した姿を見せる。
順調にトーナメントを勝ち上がり、最終日の決勝を翌日に控えたミーティングでは、劉楽コーチと細かい戦術を練った。
「美柚を優勝させたいという気持ちを強く感じました。コーチと美柚の話を照らし合わせると、それぞれの意見がうまく噛み合ってくるようになりました。美柚もきっと、同じことを感じていたのではないでしょうか」と、村守は指摘する。
迎えた翌日の決勝戦。エリートアカデミーでは女子初となる全中制覇を果たした瞬間、長崎はあふれる涙を抑えられなかった。
2 / 4