ユーロ2024開催のドイツで50年前に見たW杯 ベテラン記者が明かす今では考えられない移動ルートとチケット購入 (2ページ目)

【東京・虎ノ門で入場券が買えた】

 最大の問題は「どうやって入場券を手に入れるか」だった。

 日本人でW杯観戦経験がある人などほぼ皆無。もちろん、インターネットなどもないから情報収集すら難しい......。

 最初はフランスに住んでいる知人に頼んで調べてもらったりしていたのだが、そのうちドイツ最大の航空会社ルフトハンザ航空が日本での代理店になっていることがわかった。

 そこで、東京港区虎ノ門にあった日本最初の超高層ビル、霞が関ビル1階のルフトハンザ航空東京支店に行ってみた。

 すると、そこには入場券の申込用紙が置いてあって、たとえば「6月14日、ドルトムントでのザイール(現、コンゴ民主共和国)対スコットランド戦のカテゴリー3を1枚」といったように記入して購入することができた。そして、請求書が来たので料金を支払っておいたら、大会前に入場券の束が郵送されてきた。

 入場券はきわめて美しいもので、「さすがW杯だなぁ」と感心したものだ。

 一例をお見せしよう。先ほど申込書の例として書いたザイール対スコットランド戦の入場券だ。

1974年W杯ザイール対スコットランド戦の入場券(画像は後藤健生氏提供)1974年W杯ザイール対スコットランド戦の入場券(画像は後藤健生氏提供)この記事に関連する写真を見る 会場はこの大会のために建設されたドルトムントのヴェストファーレン・スタジアム。現在のジグナル・イドゥナ・パルクだが、拡張前は今のような巨大なスタジアムではなかった。

 まず、一番上のドルトムントという都市名と日付が書いてある欄の地色は灰緑色だが、この部分は日付によって色が変わってくる。もう1枚お見せするのはミュンヘンでの決勝戦の入場券だが、日付の欄が赤になっているのがわかるだろう。

 上から2番目の欄には「Nブロック28列53番」という座席番号と20.00マルクという料金が書いてあるが、青緑色は「カテゴリー3」を表わしている。決勝戦のこの欄が黄緑色になっているが、これがカテゴリー5(立見席)を表わす色だ。

1974年W杯決勝の入場券(画像は後藤健生氏提供)1974年W杯決勝の入場券(画像は後藤健生氏提供)この記事に関連する写真を見る そして、一番下にはスタジアムの図が書いてある。これを見れば、「Nブロック」というのがスタジアムの北東のコーナー付近であることがわかる。決勝戦の立見席は「F2」だから、図を見れば北側ゴール裏だということが一目瞭然だ(西ドイツが2ゴールを決めた側のゴール裏だった)。

 また、スタジアムの図が書いてある欄の黄色い地色はヴェストファーレン・スタジアムの色。決勝戦の灰色っぽい地色はミュンヘン・オリンピック・スタジアムの色ということになる。

 つまり、入場券の色は「試合日の色」と「座席カテゴリーの色」、「スタジアムの色」の3つの組み合わせだ。だから、色の組み合わせは12×5×9の540通りもあったはずだが、それでいて全体の色のバランスも悪くはない。

 なお、左にある「WM74」と書いてあるのが大会エンブレムで、「WM」がドイツ語でW杯のこと。EUROの場合は「EM」となる。

 いずれにしてもW杯西ドイツ大会の入場券は、機能性とデザインが一体となったなかなかスタイリッシュなものだったのだ。

 とにかく、この大会では地下鉄に乗って虎ノ門まで行って申込書を書くだけで入場券が買えたのだ。しかも、バラ売り可だった。W杯が商業化する前の、古き良き時代の話である。

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