谷晃生「試合に出なくても学べているからいい、とは思えない」ベルギーでの厳しい現状や葛藤を明かす (3ページ目)

  • 高村美砂●取材・文 text&photo by Takamura Misa

 すべては、自分が描く目標に辿り着くため。どんな道順を辿ったとしても、必ずそこに。

「今シーズンは自分で言うのもなんですけど、ガンバでもデンデルでもすごく苦労した1年でした。特にこのベルギーに来てからの半年は、自分がサッカーをしてきた15年くらいの間に味わった悔しさを遥かに上回る悔しさを味わったし、いかに自分が恵まれてサッカーをしてきたのかも思い知らされました。

 そのことが、自分にとってどういう意味を持つのかは、正直まだわかりません。今は遠回りをしているように感じていることも、のちのち、キャリアを積み上げていくなかでは近道だったという結論になるかもしれないし、いつか『あの経験がワールドカップにつながったよね』と言えるものになるかもしれない。

 だからこそ、自分にできることは、やっぱり自分の決断に責任を持って、今を懸命に過ごすことでしかないと思うんです。アスリートは結果を残せばそれが正解になる世界だと考えても、どんな道を辿ろうと、遅かれ早かれ、最終的に自分が行き着きたいと思える場所にいられたらそれでいい。

 じゃあ、今の自分にとってその行き着きたい場所は? と考えると、やっぱりまずは2年半後のW杯出場なんです。というか、出場するだけじゃなく、W杯を戦いたい。

 そのためにも、今はとにかく試合に出ることを考えなければいけないし、そのためには自分が選んだ選択にしっかりと向き合って、全力で戦い続けるしかない。それさえできていれば、なるようになるというか、なるようにしかならんというか......そう思えるだけの自信を持っていられる過ごし方ができていればいいのかなと思っています」

 18歳でプロキャリアを歩み始めて6年目。2021年の東京五輪での活躍が認められ、同年には20歳で日本代表に初招集されるなど、順風満帆にキャリアを進めてきた谷は今、さまざまな葛藤のなかで戦いを続けている。彼の言葉を聞く限り、キャリアにおいて特別なシーズンを過ごしているのも間違いないだろう。

 でもだからこそ、明確になったビジョンや"今"があるのも事実だ。そのことがこの先の"谷晃生"を作り上げていく要素のひとつになっていくことも。

 雨が降り注ぐ、閑散としたスタジアムで声を張り上げて戦う彼の姿が、それを教えてくれた。

(おわり)

谷晃生(たに・こうせい)
2000年11月22日生まれ。大阪府出身。ガンバ大阪のアカデミー育ちで、高校1年生の時に二種登録され、2017年3月にはJ3リーグデビュー。同年12月には飛び級でのトップチーム昇格が発表された。2020年、湘南ベルマーレに期限付き移籍。2022年までの3シーズン、不動の守護神として活躍。2023年、ガンバに復帰するも、同年夏にはベルギーのFCVデンデルEHへ期限付きで移籍した。世代別代表では、2017年U-17W杯、2021年東京五輪に出場。2021年8月、日本代表にも初めて選出された。

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