アルゼンチン代表の悪行をFIFAも批判。その「攻撃的な振る舞い」こそ強さの源泉でもある (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

【欧州各国にある「デザイン」がない】

 そこでアルゼンチン人は、個人が熱く戦う。責任をもって局面を制することによって、全体の主導権を得る。個人が戦術を担い、それだけにエモーションがプレーに大きな影響を与える。必死に戦って勝ちを得ると、どこかでコンビネーションが合い、本来以上の力を出せる。理屈ではない。お互いの感情が高いところで共鳴するのだ。

 彼らのプレーは本能や感情の動きに土台がある。
 
 カタールW杯では、ヨーロッパのフランス、クロアチア、オランダなどは秩序が感じられた。ひとつのプレーデザインがあって、それを選手が運用していた。それだけに一定の規則性があって、再現性もあり、有力な選手はそれを軸に傑出したプレーをやってのけた。

 しかし、アルゼンチンにはデザインなどなかった。本能のところでお互いが結びつく。不規則で、アナーキーなチームだった。つまり不安定だったが、「何をしてくるかわからない」からこそ、上記の3チームを破ることもできた。メッシというリーダーを戴いて、各選手が能力を発揮。エモーションがうねりとなって、相手を飲み込んだ。

 アルゼンチン人の利己主義は、ほとんどの日本人には受け入れられないだろう。むしろ、眉をひそめるはずだ。

 スタジアムの記者席が空いていて、勝手に座ったアルゼンチン人ファンがふんぞり返っていた。係員に注意されると、堂々と言い返していた。

「ここに最初に来て、ずっといたんだから、座っていたっていいだろ?」

 なんという図々しさだろうか。地下鉄や商業施設でも、自分たちの都合で行動する場面がとにかく多い国民だった。彼らがアルゼンチンという旗のもとで団結する姿は感動的だったが......。そういう国民だけができるサッカーもあるということだ。

【著者プロフィール】小宮良之(こみや・よしゆき)
スポーツライター。1972年、横浜生まれ。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。

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