中村俊輔が語る、指導者としての理想像。「落合博満さんは本当に細かいところまで見ている。俺もそっち系だな」 (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

【樋口監督にかけられた言葉】

 晴天に恵まれた1月4日。都内近郊のサッカー場で"初蹴り"を行なう中村と一緒に練習しようと、J1の主力級やJ2の若手、地域リーグの選手がやって来た。サーキットトレーニングは中村自ら内容を考え、個人契約するトレーナーが全選手をサポートした。

 午前・午後の二部練習を終えると、取材中のフォトグラファーに中村が歩み寄る。「ばっちり撮れましたか? 高くジャンプしているカットでも撮りますか?」。ふとした冗談に周囲は和み、自然とポジティブな空気が漂った。

 練習後に食事に行けば、目をかける若手に前向きな言葉をかけていく。中村の小さな気配りにより、その場にいる全員にとって、各々の仕事をしやすい環境ができていた。

 中村自身、指導者にかけられた何気ない言葉が血肉となり、ここまでやってくることができたという。特に大きな力をもらったひとりが、中学時代にマリノスユースを率いていた樋口靖洋監督だった(現ヴィアティン三重監督)。

「身長なんていつか伸びるから、筋トレなんかしなくていい。それより、こういう股抜きがあるんだけどさ......」

 中学1、2年の面談で、そう声をかけられたことをよく覚えている。

 周囲より成長期の遅い中村に対し、樋口監督はもっと先を見ていた。今は技術を磨いておけば、将来、状況を打開する武器になるはずだ。プロになった中村が1対1の場面で、ボールを足裏で引いてアウトサイドに出してから相手の股を抜くテクニックは、当時、樋口監督に教わったものだという。

「樋口さん、褒めちぎってくれるのがデカかったよね。プロになってからもそうだけど、俺、何も言われないタイプだったから。何気ない言葉でパって道が開ける時があるから、俺もそういう指導者になりたい気持ちがあるよね」

 いつか現役生活を終えたあと、中村には指導者としての野望もたくさんある。自身の経験を日本サッカーに還元したいとか、J1チームを率いてシャーレを掲げたいなどという壮大な目標ではなく、もっと根底にあるものだ。

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