【育将・今西和男】小林伸二「決めつけず、押しつけずに伸ばす」 (3ページ目)
「えっ、俺なのっていう感じですよ。トップチームはイシ(石崎)さんがJ1に上げられるものだと思っていましたし、まったく関心がなかったですから」
とにかく窮地を救って欲しいということで、次の3試合を監督代行という形で登録されて指揮を執った。すると、ここで3連勝してしまう。3試合目はW杯を開催する通称ビッグアイ(現・大銀ドーム)のこけら落としであった。29,226人の大観衆を飲み込んだ京都とのこの試合も、高松のビッグアイ初ゴールに続き、梅田高志、佐藤一樹が得点を決める見応えのある内容で3対1と圧勝した。負けが込んでいた頃は、「せっかく作ったスタジアムで恥ずかしい試合をするな」とピリピリしていた剛腕、平松守彦知事も破顔一笑で大いに満足したコメントを寄せている。
メインスポンサーのペイントハウスの星野初太郎社長も、このV字回復の結果を受けて代行を外して、正式に小林をトップの監督として迎えることを決意した。
「ただ自分として、純粋に教えられることを教えようとしただけです。でもね、コーチと監督はまったく違うんです。監督になると誰もしゃべりに来なくなるんです。それまでだったら、全体練習終わったら『個人練しようか』とか、こっちからも言えるし、『伸二さん、こういうのお願いします』と選手からも寄ってくる。『お前、それはいいアイデアだから監督に言ってみろよ』と伝えると『いや、監督には言えないから、伸二さんから言ってくださいよ』となったり、気さくに話せる。
ところが、監督になると誰も何も言ってくれない。で、孤独になると俺の練習はダメなのかな、このままじゃいけないのかな、と思ってしまう。怖いんですよ、ひとりぼっちで。そこでまた生きてくるのが、今西さんの時代に受けたメンタルトレーニングなんです。そういうときは、監督が自分の方から寄っていって情報を取るんだと。変なプライドに振り回されずに『今日のトレーニングどうだった』とか聞いていく。そういう経験をしながら、あの年は進んでいましたね」
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