パリオリンピックで連勝のサッカー男子 好調を支える要因と次戦以降につながるプレーとは (3ページ目)
【マリが犯した致命的なミス】
そんな監督の信念が選手に浸透していることが、高次元で安定したペースで戦うことができている理由であり、それがこのチームの大きな魅力になっている。
日本が奪った決勝点は、相手ペースながら0-0で推移していた後半37分だった。相手の左SBフォデ・ドゥクレのフィードを、中盤で山本がカットしたことが発端だった。やってはいけない致命的なミスとはこのことで、好守はその瞬間、180度ひっくり返った。
この日の日本には見ることがなかった種類の致命的なミスを、マリは犯してしまった。緊張度の高い試合のなかで、マリの方が先に焦れたという印象だ。山本がパスカットしたボールを受けたのは細谷で、右のライン際に持ち出し、ハンドオフで相手を制しながら低重心のフォームでドリブルを開始した。まさにここぞとばかり、疾走した。駆け寄るマーカーひとりをきれいにかわし、深い位置から折り返すと、三戸がニアに飛び込んでいた。
三戸は潰れ役に終わったが、ファーサイドで受けた佐藤恵允がシュートに持ち込む。これをGKがセーブしたこぼれ球に反応したのが山本だった。パスカットしたその足で60メートル強を駆け上がり、自らフィニッシュに結びつけた。前向きな姿勢の産物である。
いつもどおり、CF細谷にボールは集まらなかった。日本が劣勢に陥った原因のひとつである。だが彼の、山本のパスを受けた後に見せた右サイドでの疾走は、ゴール前でのやや物足りないプレーを帳消しにする殊勲のアクションだった。いっそのこと「右ウイングで使えば」と言いたくなる、鮮やかな突破だった。
オーバーエイジのいない日本。ベスト8に進めば上出来と見ていたが、すでにそれは達成した。チャレンジャー精神と高い位置からいく姿勢で、この後も日本のサッカーを五輪の舞台でアピールしてほしいものである。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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