「打撃の神様」川上哲治の指導法 V9時代の巨人の5番・末次利光は「ボールだけしか見えなかった」瞬間があった (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

【打撃の指導を受ける中で味わった不思議な感覚】

――続いて練習についてお聞きします。多摩川のグラウンドで、川上監督が選手につきっきりで打ち込んだ、という話を聞いたことありますが、実際にはどんな練習をされていたのですか?

末次 ひたすらバッティングですよ。炎天下の中で1時間ぐらいずっとやっていました。ずっと打っていると、30分ぐらい経った頃に意識が朦朧としてくるのですが、同時に集中力がだんだん高まっていくのがわかるんです。

 川上さんは「ボールが止まって見えた」という表現をよくされていましたが、そのバッティング練習をしている時に、私自身もそれに近い感覚になったことがあって。表現が難しいのですが、「ボールだけしか見えなかった」瞬間があったんです。ボールがゆっくり、ゆっくり、来るような感じでした。

――ボールが止まって見える境地に辿り着いたということですか?

末次 ボールが止まって見えるというのは、タイミング、間のとり方なんだと思います。ただ、さすがに「止まって見える」ところまではいけませんでしたけどね......川上さんは神様で、私はやっぱり凡人だったんだなと(笑)。

――指導を受けた中で、ほかに印象に残っていることは?

末次 僕は現役時代に「逆方向(ライト)に打つのがうまい」と言われていたのですが、川上さんの徹底した指導のおかげだと思っています。ヒットエンドランを打つのであれば、「必ず右へ打て。インコースのボールでも右へ打て」と。とにかく叩き込まれたおかげで右中間へ打球が飛ぶようになっていきました。

 バッティングを中心にいろいろと指導していただきましたが、褒められることはあまりなかったですね。おべんちゃらを言うような方でもなかったですし。ただ、打撃練習中に僕の打球が川上さんのイメージに近づいた時には、「今のだよ! 今の打ち方がいいんだ」という言葉はかけてくれました。

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