元楽天ドラ1長谷部康平の今 パン屋や野球塾にも挑戦「プロ野球と同じくらい刺激的な仕事に出会えるんじゃないか」 (4ページ目)
「インターネットで情報を仕入れやすい時代になったんで、プロ野球選手のフォームを真似ることはいいことだと思います。ただ、そのどこがいいのか悪いのかっていうのを、指導者が正しく伝えてあげないといけない。体格とか関節の可動域、身体の使い方とかって人それぞれなんで、どの動きが理に適っているのかっていうのを本人が理解しないと故障にもつながったりするので」
【気づけば野球に熱心な自分がいる】
そしてもうひとつ。長谷部は「なんか、宣伝っぽくなっちゃうんですけど......」と恐縮しながら教えてくれたのが、身体に障害を抱えた人を対象とした就労支援だ。
グローブの修理やボールの修繕などを請け負う事業を計画し、5月に仙台市から認可が下りたのだという。長谷部が経緯を話す。
「楽天でプレーしている時に、身体が不自由でも熱心に応援してくださる方が多いんだって感じていて。野球が大好きなそういう方たちの手助けをできたらなって思っていて、その活動を具体的に動き出せたのはすごくよかったですね」
他業種への興味は尽きないが、気づけば野球に熱心な自分がいる。
セカンドキャリアに進んでも、プロ野球OBのほとんどが「指導者としてユニフォームを着たい」と思いを馳せる。長谷部もそうなのだろうと尋ねると、即座に否定された。
「それはないっすね。パンのよさを伝えるより、野球のよさを伝えるほうが『脳みそが活発に動いてるな』って感じますけど(笑)。正直、『これを仕事にできたら幸せだろうな』って夢見て、実際にプロになれた達成感とか快感って強烈なんです。でも、僕は『もう一度、プロ野球と同じくらい刺激的な仕事に出会えるんじゃないか?』って思っているほうですかね。そんな淡い期待を抱きながら、いろんなことにチャレンジしているという毎日です」
ラ・パンでの仕事が終わり、バッティング・アスリートに顔を出す。
施設の室内練習場で汗を流す小学生や中学生が、長谷部に気づく。
「あ、パン屋だ! パンちょうだいよ」
おいおい俺のほうが年上だよと、独りごちながらも「ちゃんとやってるかぁ」と穏やかに声をかけ、彼らの練習を見守る。
元プロ野球選手であり、パン屋でもある。それがいいと、長谷部康平は思っている。
著者プロフィール
田口元義 (たぐち・げんき)
1977年、福島県出身。元高校球児(3年間補欠)。雑誌編集者を経て、2003年からフリーライターとして活動する。雑誌やウェブサイトを中心に寄稿。著書に「負けてみろ。 聖光学院と斎藤智也の高校野球」(秀和システム刊)がある。
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