元楽天ドラ1長谷部康平の今 パン屋や野球塾にも挑戦「プロ野球と同じくらい刺激的な仕事に出会えるんじゃないか」 (2ページ目)

  • 田口元義●文・写真 text & photo by Taguchi Genki

 引退した時点で次の就職先が決まりかけていた長谷部に待ったをかけたのは、当時、球団副会長を務めていた星野仙一だった。

「楽天に残らんのか?」

 思わぬ「鶴のひと声」によって与えられた営業という業務内容も、「野球以外の仕事に就きたい」と望む彼にとっては好都合だった。

「用具係とかマネージャー、バッティングピッチャーとか、チームに帯同する仕事では意味がないと思っていたんですよね。営業は、僕がこれから社会に出るために必要なスキルだと思ったんで、球団には感謝しています」

 最初の3カ月間は、ホームスタジアムの年間シートを販売する仕事だった。就業当初はパソコンの使い方を知らず、アポイントメントの取り方といった電話対応もまったくの素人だった。30代で初めて経験するサラリーマン。「めちゃくちゃ大変だった」と、長谷部は未熟だった自分を隠そうとしない。

 そこが、セカンドキャリアを歩んでいくうえでの強みだった。長谷部は「元プロ野球選手」という肩書きを押し売りしなかった。

 会社の同僚や取引先でも、知らないことは「知りません」と打ち明ける。「なんとか食らいついて頑張ります」と、平身低頭に接する誠実な姿勢によって早々と仕事に慣れ、球場の看板などを販売するスポンサー営業に回っても顧客と良好な関係を築くことができた。

「いいのか悪いのかわかんないですけど、元プロ野球選手っていうプライドを持つタイプではないんで(笑)。『初心者なんです』みたいな感じでやらせてもらっていました。『元楽天の選手』ってアドバンテージはあったと思いますけど、相手はお金を出す側なんで、それだけで顧客をつかめるわけではないですから。お客さんとの会話のなかでお互いのことを知ったり、そういうコミュニケーションは球団職員をやって勉強になったことでしたね」

 野球界という狭い社会で20年以上も生きてきただけに、一般社会は新たな刺激で溢れていた。最たるものは人脈だ。営業を通じて知り合う人たちとの交流が新鮮だった。

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