「理想は上原浩治」 山本由伸、佐々木朗希ら侍ジャパン先発陣の投球フォームをフィジカルトレーナーが分析する (3ページ目)

  • Text by Sportiva

――"令和の怪物"佐々木朗希投手はどう見ていますか?

吉岡 佐々木投手は打者側の左足を"ぶん回す"ように高く上げて、骨盤を回旋させることでムチのような跳ね返りの力を生み出しています。左足を下ろすパワーも使って右腕の大きな動きを作り、体全体に勢いをつけて投げているように見えます。だから最速165kmのスピードボールが投げられるんだと思います。

――佐々木投手は現在21歳ですが、今後、さらにボールのパワーやスピードが増す可能性はあるでしょうか?

吉原 もちろんあります。現時点では、左足で踏み込んだ際に、地面から得られるエネルギーを十分に使えていないように見えます。すでにチームで取り組んでいるかもしれませんが、骨盤周辺、臀部、腹斜筋、ハムストリングスの弾性力(元に戻ろうとする力)を引き出すメニューを増やすと、さらにすごいボールが投げられるようになるかもしれません。

――2年連続で沢村賞に輝いた山本由伸投手の、左足を高く上げない新投球フォームの印象は?

吉原 すごく理にかなった投げ方です。セットポジションから打者の方向にスライドするように、いわゆるクイックのような動きをしますね。「クイックだと力が出ないのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。左足をあまり上げずに前に出すことで体全体の力をドスンと打者方向に出すことができますし、そこから骨盤をぐっと回すことができれば、かなり力があるボールを投げることができます。

 構えてからいったん軸足のほうに重心を乗せて、反動をつけるように投げる投手もいますね。ただ、その過程で打者側の足を上げた時に、いったん動きを止めることには疑問があります。投げ急ぎをしないように、といった狙いはあるかもしれませんが、パワーを伝えるという点ではマイナスのように感じます。例えば、陸上のやり投げの投擲(とうてき)を見るとわかると思います。

――具体的にはどういったことでしょうか?
 
吉原 やり投げでは助走でつけた勢いを殺さずに、そのまま前方に向けてやりを投げますよね。投手が一度止まることは、やりを投げる直前に止まるのと同じようなことです。山本投手の新フォームは前方への力を一度も止めることがないので、原理はやり投げに近いかもしれません。「動きを止めないけど、投げる直前はしっかり軸足に重心を乗せている」という点が共通している点だと思います。

さらに山本投手は、踏み込んだ時に骨盤を回すスピードもかなり速いので、打者は非常にタイミングを取りづらいはずです。脱力しているほど体は動かしやすくなりますが、彼は必要な時にだけ力を入れるような感覚をすでに掴んでいるのでしょう。上原さんやMLBの投手によく見られた投げ方を、日本でも実践する投手が出てきたことは、プロ野球界にとってすごく楽しみなことだと思います。

【プロフィール】
吉原 剛(よしはら・たけし) 

1973年福岡県生まれ。九州共立大学八幡西高等学校(現自由ヶ丘高等学校)卒。会社員を経て渡米し「ムーブメント」トレーニングを学ぶ。帰国後、体の動きの改善を中心とした処方トレーニングを提唱し、独自のライセンス制度を発行している。さまざまな日本のプロアスリートの指導のほか、台湾プロ野球選手のパーソナルトレーニングも担当。アスリートワイズパフォーマンス代表。ムーブメントワークアウト協会代表理事。日本スポーツ協会スポーツプログラマー。

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