「清原和博クラスの選手になれた」八重樫幸雄が惜しむ長嶋一茂の才能
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【極端に細いバットを使っていた長嶋一茂】
――前回は長嶋一茂さんについて伺いましたが、今回もその続きをお願いしたいと思います。「一茂については、いろいろ話したいことがある」とおっしゃっていましたね。
八重樫 前回も言ったけど、本当にポテンシャルが高い男だったんだけど、本人が本気で取り組まなかったのがもったいなかったね。
1993年、父・長嶋茂雄(右)が監督に就任した巨人にトレードで移籍した一茂(左)――立教大学時代には、東京六大学リーグで11本塁打を記録しています。打者としての才能はどうだったんですか?
八重樫 打者としても並外れた才能がありましたよ。飛距離もすごかったし。でも、アイツは何も考えていないから、バット選びもいい加減だったんだよね。誰に聞いたのかわからないけど、「グリップの細いバットを使えば飛距離が出る」と言って、ものすごく細いグリップのバットを使っていたんです。でも、そういうバットはバットコントロールがすごく難しい。ノックバット程度の細さだったんだから。
――誰かから聞いた情報を、鵜呑みにしてしまったということですか?
八重樫 そう。イチローのように芯に当てることがうまい選手なら、そういうバットでもいいと思うよ。でも、一茂の技術じゃ、あんな細いバットは使いこなせない。だから、なかなか芯に当たらないからフリーバッティングでも、何本もバットを折るんです。2、3球続けてバットを折って、そのたびにバットを取りに戻るから、なかなか順番が進まなかった。
――八重樫さんはその点を本人に指摘しなかったんですか?
八重樫 もちろん本人にも言いました。「一茂、細いバットで遠心力を使ってボールを遠くに飛ばしたいっていう気持ちはよくわかる。だけどな、芯の幅を見てみろよ。たったこれだけの細い幅だぞ。お前の今の技術で芯に当てるのはかなり難しいことだぞ。実際に何本も折っているじゃないか」って。
――そうしたら、どんな反応が?
八重樫 あまり納得していなかったんじゃないかな。「こっちのバットを使ってみろよ」って少し太めのバットを渡したら、一度だけそのバットを使っていたけど、そのあとは元の細いバットを使っていたね(笑)。
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