バレンティンの55本塁打を支えた「3つの助言」 (4ページ目)

  • 津金一郎●文 text by Tsugane Ichiro
  • photo by Nikkan sports

 そして、最も大きな要因となっているのが、集中力である。佐藤打撃兼作戦コーチも変化を感じている。

「去年まではストライク、ボールの判定に文句を言ったりして、それが試合の最初の方にあると、以降の打席はヤル気をなくすということもありました。監督もバレンティンに『集中力を大事にしろ』と何度も言っていました。今年は、最後まで集中してやっています」

 バレンティン自身も「いい打席にするためには、ピッチャーの失投を狙って集中するだけ」と打席に臨んでいる。チームが低迷する中でもモチベーションが低下しない背景には、昨年末に結んだ2016年までの4年契約がある。長期契約を結んだ直後に結果を残せなくなる外国人選手もいるため、バレンティンとの契約を不安視する向きもあった。だが、バレンティンは、「(契約をしてくれた球団が)正しかったというのを証明したいんだ」と、ホームランを量産することで、集中力を途切れさせることなくシーズンを送ってきた。

 こうしたバレンティンの意識の変化について、小川監督は「ホームランだけではなく、打率、打点においても成績を残しているのが大きいんじゃないかな。打率上位は外国人選手ばかりというライバル意識も、モチベーション維持につながっていると思う」と分析している。

 今季のバレンティンは、オランダ代表で出場したWBCでの故障のために開幕からは出遅れ、一軍に合流したのは、チームがすでに12試合を消化していた4月12日の巨人戦だった。そして、4月16日に神宮球場で行われた中日戦で今季1号、2号を連発してからホームラン記録への道のりは始まった。4月8本、5月5本、6月11本、7月9本と放ち、8月には月間最多本塁打記録を塗り替える18本ものアーチを描いた。史上最速の122試合目で55号に到達し、「長かったけど、最高の気持ち」と喜びを表したが、まだ22試合が残されている。「打率でもトップが狙えるから、ホームラン狙いになってボール球を振らないよう、しっかりボールを見極めていくよ」と話すバレンティンが、55本の記録を49年ぶりに塗り替え、どこまで伸ばせるのか興味はつきない。

 さらに、リーグトップのホームラン、打率に加え、打点でも1位・ブランコとの差はわずか6。日本球界では過去7人しか成し遂げていない三冠王も視野にとらえている。2004年の松中信彦以来、セ・リーグでは1986年のランディ・バース以来となる快挙の可能性は十分にある。55号を放って「やっと平常心に戻れるよ」と安堵した表情を浮かべたバレンティンだが、まだしばらく彼の周りは騒がしい日々が続くことになる。

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