バレンティンの55本塁打を支えた「3つの助言」 (3ページ目)
技術的な変化に加え、伊勢孝夫ヒッティングコーディネーターは、「さらに」と続ける。昨年までヤクルトの一軍打撃コーチをつとめ、今季はチーム全体の打撃を見ている同氏は、配球の読みが本塁打の増産に繋がっていると指摘する。
「近鉄時代にローズがホームラン記録を作ったときの話をバレンティンが来日した1年目にして、こう助言したんや。『ローズはキャッチャーの配球のクセを読んでいた』って。3年目になって、各チームの捕手がどういう配球をする傾向にあるのか、わかってきたというのもあるんやろな」
捕手の配球を読んで日本球界で成功を納めたのは、ローズだけではない。今季は開幕して間もない4月6日のヤクルト戦で、外国人選手としては史上初めて日本球界での通算2000本安打を達成したラミレス(DeNA)も、「日本の野球は、ほとんど捕手がゲームをコントロールしている。日本で成功するためには、ピッチャーの研究をする前に、捕手の傾向や配球パターンを研究しなければならない」と同じ見解を示す。
「配球も読めるし、頭がいい」と宮本も舌を巻くバレンティンが、どのようにして配球を読めるようになったのか。佐藤真一打撃兼作戦コーチは、「スコアラーからビデオをもらって見ることはあまりないけど、これまでの積み重ねを生かしている。自分なりに試合を通じて感じてきたことを考えながら打席に立っているから、あれだけ打てるんだろうね」と、経験が大きいと見ている。
8月21日の巨人戦で2本ホーマーしたため、周囲は翌日の試合では巨人バッテリーがバレンティンとの勝負を避けると予想していた。だが、バレンティンは「阿部だから勝負してくる」と集中力を切らさず、2戦連続の2本塁打につなげた。
また、8月27日からの中日との3連戦では、“しつこいリード”と評される谷繁元信との攻防があった。初戦で2打席連続して外角勝負を読み切ってスタンドに運んだバレンティンは、28日の試合でもホームランを放った。迎えた第3戦の第1打席、谷繁は130キロ台の直球とスライダーを内角ばかりに集めて3ボール2ストライクに追い込み、最後は川上憲伸に伝家の宝刀である100キロ台の緩いカーブを外角に投げさせた。並みの外国人打者なら思わず手を出してしまいがちな球だったが、バレンティンはわずかに外れるカーブを悠然と見送って四球を選んだ。ホームランこそ出なかったものの、打たれたコースで抑えるまで何度でも勝負する傾向の強い谷繁の特徴をつかんでいたからこそというシーンだった。
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