【MLB】大谷翔平が挑む「未踏峰」サイ・ヤング賞 投票権を持つ記者の評価基準と近年の変化 (3ページ目)
【「未踏峰」の領域へのカギは?】
大谷はこう語っている。
「(サイ・ヤング賞を)獲れればもちろんすばらしいと思います。ただ、その付近(候補)にいくということは、それだけイニングも投げているということなので、健康で1年間回れれば。まずはそこが一番やるべきことかなと思います」
先発投手は通常、中4日あるいは中5日で登板し、その間に身体をリカバリーさせながら次の登板に備える。しかし大谷は、休むべき時にDHとして出場し、打撃や走塁でフルにプレーする。
ちなみにMLBには、歴史に残る体力モンスターがいる。ボルチモア・オリオールズで活躍したカル・リプケンJr.は、遊撃手という負担の大きい守備位置で2632試合連続出場という大記録を打ち立てた。前述のサイ・ヤングも信じられない数字ばかりだ。イチローもマリナーズ時代にデビューから10年連続200安打を記録し、年間平均160試合に出場していた。
いずれも偉大だが、大谷は、これらの先人と比較しても異なる次元にいる。2022年は666打席に立ちながら、166回を投げた。総合的な運動量で見れば、野球史上最も負荷の高い役割を担っている。そして2026年は、2022年の水準すら上回ろうとしている。エンゼルス時代とは異なり、ポストシーズンにも進出するからだ。
その意味で、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で投手として登板しなかったのは賢明だった。2006年から2023年までのWBC5大会で、調整を早めたために、シーズンの防御率が前年より悪化した例が少なくないからだ。大谷自身も2023年のWBCで投げ、胴上げ投手となったが、同年の公式戦は防御率3.14(前年から+0.81)だった。肘に違和感が出て8月23日の登板を最後に、23試合、132回という投球記録にとどまっている。
「未踏峰」という言葉は、言うまでもなく登山に由来する。まだ人類が足を踏み入れていない山の頂を指すのだ。1800年代にはアルプスの主要峰がほぼ登頂され、1900年代前半にヒマラヤの最高峰、エベレスト山に挑んだのが、イギリスの登山家ジョージ・マロリーだった。1923年、マロリーは取材で記者に「なぜエベレストに登るのか」と問われ、「Because it is there(そこに山があるからだ)」と答えたとされる。大谷翔平にとってのサイ・ヤング賞も同じなのかもしれない。
二刀流という前例のない道を歩んできた彼の前に、まだ誰も到達していない頂がある。それだけで、挑戦する理由としては十分なのである。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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