【MLB】大谷翔平が挑む「未踏峰」サイ・ヤング賞 投票権を持つ記者の評価基準と近年の変化 (2ページ目)
【指標は「勝ち星」ではなく「支配力」の意味】
筆者は2018年、ナ・リーグのサイ・ヤング賞の投票を行なったが、投票前に、アメリカ人記者たちと意見を戦わせ、評価基準の変化について多くを学ぶことができた。その年受賞したのはニューヨーク・メッツのジェイコブ・デグロムで10勝9敗、2位のワシントン・ナショナルズのマックス・シャーザーは18勝7敗である。しかしERA+はシャーザーの168に対し、デグロムは218だった。
記者の間で「勝ち星は決定的な指標ではない」という考え方が広く共有され出したのは、2010年の投票からだ。シアトル・マリナーズのフェリックス・ヘルナンデスが13勝12敗ながら、タンパベイ・レイズのデビッド・プライス(19勝6敗)やヤンキースのCCサバシア(21勝7敗)を抑えて受賞した。ただし、2018年のデグロムのケースで、迷いはあった。デグロムは9月11日の登板を終えた時点で8勝9敗と負け越しており、2ケタ勝利に届かない可能性もあったからだ。勝ち数は気にしないと言っても、1ケタでは格好がつかない。結局デグロムは9月21日に9勝目、9月26日の最終登板で10勝目を挙げ、形を整えてくれた。結果、筆者も含め30人中29人の1位票を集めたのである。
もうひとつ興味深い例が、2021年のナ・リーグのケースである。ミルウォーキー・ブルワーズのコービン・バーンズが選ばれたが、28試合に先発し、167回で11勝5敗。一方、対抗馬となったフィラデルフィア・フィリーズのザック・ウィーラーは32試合に先発し、213回1/3で14勝10敗だった。1位票は両者とも12票と同数だったが、2位票で14対9と差がつき、バーンズが栄誉を得た。バーンズが勝てた最大の理由は、35.6%という高い奪三振率に象徴される支配力である。そのシーズンは開幕から5試合連続無四球で、最初の四球を与えるまでに58三振を奪ったことが話題となった。さらに8月11日のカブス戦では10者連続三振を含む15奪三振、9月11日のクリーブランド・ガーディアンズ戦では8回無安打無失点14奪三振と圧倒的な内容で、クローザーのジョシュ・ヘイダーと合わせてノーヒットノーランを達成した。
このように近年、評価の中心にあるのは支配力である。そして大谷はまさにそのタイプの投手だ。高い奪三振能力と低い被打率は、現在の記者の評価基準に合致している。おそらく、挑戦の成否を分けるのは体力だろう。
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