WBCが世界的なイベントになるには? ヨーロッパ勢の躍進、トラッキングデータ...第5回大会が示した意義と可能性 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Getty Images

 人のルーツはアイデンティティに深く関わるものだ。混血の人が多いアメリカや中南米で野球は人気という背景を考えると、ストローマンやストロップのように2つの国で代表になれるという価値観もアリだと思う。現在のグローバル社会でキーワードになっている「多様性」を、野球は独自の解釈で受け入れているともとれるからだ。

 繰り返しになるが、世界的に見ると野球はサッカーやバスケットボール、ラグビーの人気に遠く及ばないマイナースポーツだ。だからこそ代表選出基準を"緩く"しておくことで、今回のイギリス代表や、ユダヤ系アメリカ人を中心に構成されるイスラエル代表、同じくアメリカ人が多くを占めるイタリア代表のように自国リーグがそれほど盛んでなくても、WBCという晴れ舞台に出場する可能性を残すことができる。

 野球という魅力的な競技を世界に普及していくことが、WBCのひとつの意義である。そうした意味で、今回は意義深い大会となった。

【WBC初勝利の価値】

 近年、ヨーロッパで着実に力をつけているチェコ代表は、今回WBC初出場、初勝利を飾った。日本戦では国内で初めて野球が中継されるなど、盛り上がりを見せた。マクファーソンのように野球に魅了された人がいたかもしれない。

 5大会連続出場の中国代表は、開幕前に鹿児島で『薩摩おいどんカップ』に出場。「大学、社会人、プロを交え、垣根を超えた交流戦」と銘打った同大会に強化試合の相手を探していた中国代表が参戦したことは、スポーツが国際関係で果たせるプラスの側面と言えるだろう。

 パナマもWBC初勝利を挙げ、コロンビアは開幕戦で強敵メキシコを撃破した。パナマとコロンビアはメジャーリーガーを輩出し、世界の野球地図では"格下"と扱われるような存在ではない。そのコロンビアをイギリスは下した。先述したマクファーソンにとって、夢のような瞬間だった。

「本当に幸せだったよ。全試合に負けると思っていたから、1つでも勝てたのはすばらしい。メキシコも1対2と苦しめたしね」

 今回、イギリスでは「BTスポーツ」という有料チャンネルで注目試合が中継された。マクファーソンによれば、決して多くの注目を集めたわけではないが、「Times」や「Guardian」という主要紙は現地レポートを届けた。

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