WBCが世界的なイベントになるには? ヨーロッパ勢の躍進、トラッキングデータ...第5回大会が示した意義と可能性 (4ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Getty Images

 一方、大会のたびに「アメリカではWBCへの関心が低い」と言われるが、決勝は同国で中継した「FOX」の英語放送とスペイン語放送を合わせて497万人が視聴し、前回の305万人から大幅に増えた(ちなみに、毎年春にアメリカで人気の大学バスケットボール=NCAAで第16シードのフェアリー・ディキンソン大学が第1シードのパデュー大学を破った一戦は920万人が視聴)。

 プエルトリコでは、準々決勝進出を決めたグループラウンドのドミニカ戦で視聴率61%を記録した。同国のウインターリーグは観客動員に苦しむなか、メジャーリーガーたちの戦いは大きな関心を集めた。

 日本でも全試合がテレビ視聴率40%(関東地区)を超える熱狂を巻き起こすと同時に、目の肥えたファンには新たな野球の見方が示された。WBCを主催するMLBの公式HPで、打球速度や打球角度、投球の回転数などのトラッキングデータが1球ごとに公開されたのだ。

 そのなかで佐々木朗希の160キロの豪速球は「シンカー」と表示されたが、球の軌道により自動的にそう認識されたのだろう。日本では疑いなく「真っすぐ」と捉えられるが、MLBの視点を入れることで新たな楽しみ方もできるのだ。

 今大会の意義は、枚挙に暇がない。もちろん、組分けの不公平さなど改善の余地は大いに残すものの、野球振興という意味ではプラスのほうがはるかに多くある。

【2026年大会への期待】

 2026年の次回大会に向けて、マクファーソンは期待を寄せた。

「イギリスは次回の出場権を手にした。あと数年でもっと多くの人々が野球に関心を示すようになればいい。フィリーズ傘下でプレーしているガブリエル・リンコネスJrはスコットランドで育った。次回は彼にメンバー入りしてほしい」

 イギリスは連合国家で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国から構成される。リンコネスJrはそのひとつのスコットランドに、ベネズエラ人で元プロ投手の父親の仕事の関係で6歳の時に移り住んだ。当地では水泳や柔道をしていたが、大好きな野球をプレーしたくてアメリカの高校に進み、大学経由でMLB入りを果たした。そうしたルーツを持つ選手に、スコットランドの野球好きであるマクファーソンは新たな夢を託している。

 野球はもともと間口が広いスポーツだ。たとえば、身長170センチ未満のホセ・アルトゥーベ(アストロズ)も、110キロを超える巨漢のダン・ボーゲルバック(メッツ)もMLBで強打者として活躍できる点に魅力がある。その世界大会であるWBCは多様な価値観をかけ合わせることで、野球の未来を今より明るくしていける可能性がある。

 さまざまな点でそう感じられた第5回WBCは、すばらしい大会だった。

プロフィール

  • 中島大輔

    中島大輔 (なかじま・だいすけ)

    2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。

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