WBCに見るMLBのマイノリティ戦略 「スタジアムに流れる音楽」がベースボールのグローバル化に一役買っている
連日、WBCの熱戦がマイアミのローンデポ・パークで繰り広げられている。これまでの4回の大会では、マイアミの球場が使用されたことはあったものの、決勝ラウンドが行なわれるのは今大会が初めて。準々決勝以降のスタジアムの盛り上がりは、過去の大会とは比べ物にならないほどに凄まじい。その主たる要因には、市の人口の72%を占めるヒスパニック系の存在が挙げられる。
そして、今大会のこうした会場選びの背景には、現在MLBが見込むヒスパニックという巨大マーケットが存在していることは疑いようがない事実だ。
初めてフロリダでWBC決勝ラウンドが行なわれ、連日大盛況のスタジアムこの記事に関連する写真を見る
【スタジアムに響くラテン音楽】
2022年シーズン、MLB全体で見るとじつに28.5%のプレーヤーがヒスパニック系だった。これはマイノリティのなかではもっとも多い数字であり、年々その割合は増している。そして、MLBのマイノリティ戦略も年々その積極性を増している。例を挙げよう。
2021年3月、ジョージア州知事が、選挙の投票に国や政府が発行した写真付きIDの提示を義務化する州法に署名をした際、全米でリベラル層を中心に抗議運動へと発展した。黒人やヒスパニックの人々のなかには、貧困などの理由でIDを所持していない層が白人より多く、この州法が彼らへの投票妨害だという意見が噴出したのだ。
この時、MLBはただちにその年のオールスター戦の会場を、すでに決まっていたジョージア州アトランタのトゥルーイスト・パークからコロラドへと変更すると発表した。政治がスポーツに影響を及ぼすことが可視化された瞬間だった。それほどまでにMLBとしても、マイノリティの声を無視できない状況が広がっていた。
今大会のオフィシャルソングに、スペイン語の楽曲で、ラテン・コミュニティ全域から大きな支持を集めるレゲトン歌手、ダディ・ヤンキーの『Chispa』が選ばれたのは示唆に富む。
プエルトリコ出身のダディ・ヤンキーは2004年に『ガソリーナ』を大ヒットさせ、一躍ラテンのスターとなった。以降も数々のヒットソングを飛ばし、白人マーケットにもクロスオーバーして世界的な人気を誇るミュージシャンとしてその知名度を拡大させてきた。
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著者プロフィール
Saku Yanagawa (サク・ヤナガワ)
アメリカ・シカゴを拠点にするスタンダップコメディアン。2021年経済誌『フォーブス』の選ぶ「世界を変える30歳以下の30人」に選出。年間50試合以上をスタジアムで観戦するほどのシカゴ・カブス・ファン。