WBCに見るMLBのマイノリティ戦略 「スタジアムに流れる音楽」がベースボールのグローバル化に一役買っている (2ページ目)

  • text by Saku Yanagawa
  • photo by Getty Images

 準々決勝のプエルトリコ対メキシコ戦では、『ガソリーナ』を始め、彼の楽曲がイニングの合間にしきりに流され、そのたびにスタジアムは両チームのサポーターともに大合唱で応えた。そして、観戦に訪れている本人の姿がスクリーンに映し出されると客席は大きな盛り上がりを見せた。

 そもそも、今大会のスタジアムDJ(イニングの合間や投球の合間に観客を盛り上げるためにチャントや曲を流す仕事)は、対戦カードによって巧みに楽曲を選び分けている。そもそもMLBでよく見られる観客の拍手を煽る際のリズムが、ラテン音楽に特徴的に見られる3:2のリズム、いわゆる「クラーヴェ」である。

 また、先述のプエルトリコ対メキシコ戦では、ほかにも同じくプエルトリコ出身でラテン・トラップを牽引するバッド・バニーの楽曲が数多く用いられていた。初回の攻撃前には『El Apagon』でスタンドが一体となり、5回の攻撃前には『Me Porto Bonito』に合わせ観客が踊るシーンが印象的だった。

 メキシコ向けにも、近年サッカーをはじめ、代表戦でしきりに歌唱されるビセンテ・フェルナンデスの『El Rey』がかけられた。7回裏の攻撃の前にファンによる大合唱ののち、スタジアムの空気が一変し、逆転劇へとつながった。この楽曲ももともとは伝統的な「ランチェーラ」と呼ばれるジャンルの楽曲で、1991年の発表以来、メキシコ系の人々にとってのアンセムとなっている。

【ホームチームが存在しない国際試合】

 同じく準々決勝のアメリカ対ベネズエラ戦では、両チームへの楽曲の使用に明確な差異が見てとれた。

 まず、アメリカ代表には、ほかのMLB会場で流されるきわめて「一般的な」選曲がなされていた。得点をするたびに流れるのはラモーンズの『ブリッツクリーグ・バップ』、5回表の攻撃前にはニール・ダイアモンドの『スウィート・キャロライン』(ボストンのフェンウェイ・パークで有名)、ザック・ブラウンの『チキン・フライド』(カントリーの楽曲)やバックストリート・ボーイズ、ボンジョビなどが使用された。そして勝利を収めた瞬間にはマイリー・サイラスの『パーティー・イン・ザ・USA』がかけられ、ファンは手を空に揚げ祝福した。

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