リーグ3連覇の青山学院大・佐々木泰が語った苦悩のシーズン 「あそこで打てなかったら...キャプテン剥奪でした」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 チームの状況も暗転していた。打線のなかで孤軍奮闘といっていい活躍を見せた西川の当たりが止まると、投手陣への負担が増していく。開幕8連勝で優勝目前と思われた状況から3連敗を喫し、猛追してきた中央大に首位の座を明け渡した。

 5月29日、青山学院大対中央大の3回戦は両チームにとって今春のリーグ最終戦であり、「勝ったほうが優勝」という大一番になった。

 2回裏に伊藤櫂人(2年)の先制本塁打が出て、中央大が先取点を奪う。シーズン中盤から4連勝と勢いに乗る中央大が、この日も主導権を握った。

 だが、神宮球場の空気が一変したのは、4回表の青山学院大の攻撃だった。二死三塁のチャンスで、4番の西川が四球を選ぶ。

 すると西川は大声で吠え、ネクストバッターズサークルに向かって何事か叫ぶ。昨年のWBC準決勝・メキシコ戦で四球を選んだ吉田正尚(レッドソックス)が、次打者の村上宗隆(ヤクルト)へ指を差した名シーンが頭によぎった。

 ネクストバッターズサークルにいたのは、佐々木だった。のちに西川は、このシーンの心境について報道陣に語っている。

「泰とはいつも一緒に練習しているんですけど、いつもどおりいい状態で練習している姿も見てきました。泰なら絶対に打ってくれると信頼していました」

 打席に入った佐々木は目を鋭く細め、険しい表情に見えた。佐々木はこの時、「コンパクトな意識でランナーを還そう」と考えていたという。

【優勝をたぐり寄せる逆転3ラン】

 チームは中央大の先発左腕・山口謙作(3年)のカットボールに手を焼いていた。佐々木は山口のカットボールの軌道を頭に入れ、打席に入った。

 1ボールからの2球目、佐々木のヒザ元を狙ったカットボールが真ん中寄りに甘く入ってくる。佐々木は両腕をグーンと伸ばして、ボールをとらえる。打った瞬間、誰もが本塁打とわかる打球は、レフトスタンドへと消えていった。逆転の3ラン本塁打だ。

 三塁側の青山学院大ベンチは誰もが両腕を突き出し、ダイヤモンドを回る佐々木に歓声を送った。三塁ベースを回ったタイミングで、佐々木は両手の拳を握りしめ、大声で叫んだ。

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