英数学館ナインが指揮官に贈った『広陵を倒したあとの3日間』という経験。「甲子園が目標とはっきりと言えるようになった」 (4ページ目)
広陵に勝利し、エースの末宗興歩(写真右)を抱きしめる英数学館・黒田元監督(写真=学校提供)この記事に関連する写真を見る 中堅手の笹村凌我が中堅からやや左寄りのフェンスに激突しながら、真鍋の打球をつかみ取った。セオリーなら外野手も前寄りを守る場面だが、「三塁走者を帰した時点で負け」の意識を共有していたため、真鍋の長打を警戒したポジショニングを敷いていたことも、功を奏した。
「最後の伝令を送った時点で、外野が深めの守備位置だったので、指示は出しませんでした。じつはこの試合、本来のセンターとライトを入れ替えていたんです。末宗の球威と広陵の打者の力を考えると、左打者の強烈な打球がライトに多く飛ぶと思っていたので、一番うまい外野手の安井康祐をライトにしていました。それもあって、センターに飛んだ時は『やばい!』と思ったんですが、逆に名手でない笹村だからこそ、フェンスを怖がらずに捕ってくれたのかなと思います」
試合が終わった瞬間は「『やった!』とかもなく、『信じられない、何が起きたの?』と思った」。半ば放心状態で、自然と涙が出てきた。
試合後は、記者たちから「今まで経験がないくらい」の質問攻めにあった。もっとも聞かれたのは、最後の外野の守備位置について。追いつかれた時点で、英数学館としては負けなので──。こう繰り返した。
報道陣の輪が解け、ひと息ついていると、スマートフォンが揺れた。画面には「広輔」の文字。急いで通話ボタンをスライドすると、通話口から懐かしい声が響く。
「何やってんのお?(笑) すごいじゃん!」
大学時代の同期で、4年間自主練習をサポートした盟友・広島の田中広輔からの祝電だった。
通話を終え、ホーム画面の「LINE」のアイコン横には、100通以上の未読メッセージを示す「99+」の表示。ネット配信で試合を見ていた知人からメッセージが大挙しており、ようやく大仕事の実感が湧いた。
【大金星のあとの変化】
が、ここからが難しかった。強豪を退け、創部初の夏16強に名乗りを挙げたとはいえ、まだ大会は中盤だ。3日後には4回戦が控えている。
黒田には、苦い経験があった。
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