英数学館ナインが指揮官に贈った『広陵を倒したあとの3日間』という経験。「甲子園が目標とはっきりと言えるようになった」 (5ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

「秋の初戦で呉港に勝ったあと、次の試合まで約1週間空いたんですが、時間が空いてしまうと、どうしても"満足感"が出てきてしまう。達成感に浸ってしまうんですよね。実力を考えると、秋の勝利も僕たちにとっては"大波乱"だったので。その経験があったので、同じことを繰り返してはいけないと」

 黒田は、主将の関に伝えた。

「勝利したあと、最初の練習のキャッチボールをどれだけ熱くできるかで決まる」

 このアドバイスは成功だった。選手たちは非の打ちどころのない熱量でグラウンドに立ち、1球に集中してキャッチボールを繰り返した。黒田が続ける。

「選手たちは、いい雰囲気、いい熱さでグワーッとやってくれた。その姿を見て、『これは大丈夫かな』と思いました」

 だが、翌日からわずかに歯車が狂いだす。練習再開初日の熱量を保てず、少しずつ秋の初戦突破後に近い状況へと変わっていった。無理もない。強い緊張状態のあとに、表裏一体にある弛緩が訪れるのは自然なことだ。黒田が頭を掻く。

「これが英数学館の若さであり、監督の自分の経験のなさに尽きます。夏の反響の大きさは、想像していた以上でしたし、広島における広陵という存在の大きさ、広陵に勝つことの意味の大きさを痛感しました。達成感から少しずつ緩みましたし、正直言うと体力的な面もしんどかった。2試合でしたが、重圧の中で試合をして、疲れもドッと来た。自分も選手も口には出しませんでしたが、『いつ負けても大丈夫です』という空気になっていました」

 不安は的中した。広陵戦から3日後の4回戦では、近大福山に1−8の7回コールド負け。初戦同様、田中楓大から大坪翼に継投し、4回途中から末宗を投入したが、8安打7失点と打ち込まれ、万事休した。

 躍進の夏は、創部初の夏16強入りという結果で幕を閉じた。

 住中が新主将に就任して臨んだ秋は、地区予選で敗れ、県大会進出を逃した。捕手の下宮、広陵戦で最後の打球を好捕した笹村ら、夏を経験した2年生が複数残り、期待されていたなかでの敗戦だった。この結果も、黒田は前向きに捉える。

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