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ノーシードの英数学館はなぜ絶対王者に勝利できたのか。指揮官が明かす打倒・広陵への綿密な計画

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

英数学館、奇跡の夏(前編)

 2022年11月6日。来春のセンバツ出場校を決める重要な参考資料となる秋季中国大会の決勝で、広島の名門・広陵が優勝を果たした。閉会式後、広陵を率いる中井哲之は、鈴なりの報道陣を前に心情を吐露した。

「あの負け方が広陵高校野球部にとって重たくて、重たくて」

 高校野球の指導歴30年超、2度のセンバツ制覇の実績を持つベテランの中井に、ここまで言わしめた「あの負け」とは、夏の広島大会3回戦を指す。優勝候補筆頭と目されながら、1−2で敗れた試合だ。

 前年秋の中国大会で優勝、明治神宮大会で準優勝して以降、広島で広陵は独走状態にあった。高校日本代表で中軸を担った内海優太、2年生の"広陵のボンズ"こと真鍋慧(けいた)というスラッガーふたりを中心に据えた打線は、春の県大会5試合で11本塁打、58得点をたたき出し、頂点に立っていた。

 夏前に発売される、各都道府県の夏の甲子園出場校を予想する雑誌では、全誌が広島の優勝候補に挙げた。私も1誌を担当したが、広陵を優勝候補とするのは揺るぎなく、対抗馬となる2番手以降をどう予想するかが、腕の見せどころだと思っていた。

 そんな1強状態にあった広陵を阻んだのは、ノーシードの英数学館だった。

昨年夏の広島大会3回戦で優勝候補の広陵を破った英数学館ナイン(写真=学校提供)昨年夏の広島大会3回戦で優勝候補の広陵を破った英数学館ナイン(写真=学校提供)この記事に関連する写真を見る

【メンタルトレーニング効果】

 英数学館は、1983年に広島県東部の福山市に創立された私立校。高校に先んじて80年に開校された中学校、94年開校の小学校を併設し、小中高一貫教育に力を入れている。春夏合わせて10度の甲子園出場を誇る岡山の強豪・岡山理大付とはグループ校の関係にある(学校を運営する法人は、岡山理大付が「加計学園」で、英数学館が「広島加計学園」と異なる)。

 開校と同時に創部された野球部のユニフォームは、紺と赤を組み合わせた袖のライン、同じく紺の文字を赤で縁どる胸文字など、岡山理大付とほぼ同じ。だが、08年春に県8強入りした実績はあるものの、甲子園出場経験はなく、夏は3回戦進出が最高成績だった。

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