英数学館ナインが指揮官に贈った『広陵を倒したあとの3日間』という経験。「甲子園が目標とはっきりと言えるようになった」

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

英数学館、奇跡の夏(後編)

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【まさかの先頭打者アーチ】

 夏の広島大会3回戦、広陵対英数学館。その初回、英数学館先発の末宗興歩(たくほ)は厳しいコースを狙うあまり、広陵4番の真鍋慧に死球を与えるなど、1安打2四死球で二死満塁のピンチを招いたが、うまく間合いをコントロールしながら、無失点で切り抜けた。

 広陵の先発は、中谷悠太、高尾響でも森山陽一朗でもなく、2年生左腕の倉重聡だった。

 英数学館の監督である黒田元(もと)が一度も投球を確認できなかった投手だったが、倉重の高めに浮いた直球を、1番打者の下宮大和が一閃。打球はグングン伸び、レフトスタンドに突き刺さった。

 思わぬ形で英数学館が先制すると、2回も末宗が得点圏に走者を背負いながらも、初回同様無失点。裏の攻撃では、148センチと小柄ながらパンチ力のある2年生・住中智哉が二死から二塁打で出塁すると、8番の末重碧の連打で2点目を奪った。

 9番の安井康祐の二塁打で、二死二、三塁となったところで、たまらず広陵ベンチが動く。中谷の投入だった。

 黒田は「ロースコアでしか勝てない。できないことはやらない」と守備面でのあと押しに比重を置いたが、攻撃でも無策というわけではなかった。

「中谷くんのスライダーをなんとか打とうなんて思っても仕方がない。でも、こうやればバットに当たるかもしれない、四球をとれるかもしれない、ということをやってみようとは考えていきました。こまめに打席の立つ位置を変えて、マウンドから見える景色を変えようとか。でも、効果はなかったですね(苦笑)」

 この試合でも、中谷のボールは走っていた。登板直後こそ四球でピンチを広げたが、その後は6者連続三振を記録するなど、5回1/3を2安打7奪三振に封じた。

「結局、点をとれたのは下宮の先頭打者ホームランと、住中と末重の連打。監督は何もしていない(笑)。正直『1点とれるかどうか』と思っていた中で、選手が2点もプレゼントしてくれたという思いでした。この試合で、力関係的にうちが3点をとることはない。とり得る最大の点を選手たちがとってくれた。『これは絶対勝たなきゃ』と気合が入りました」

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