ノーシードの英数学館はなぜ絶対王者に勝利できたのか。指揮官が明かす打倒・広陵への綿密な計画 (5ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

 試合は広陵が延長10回サヨナラ勝ち。王者が勢いつく勝ち方で3回戦に進出した。戦いを間近で見て、黒田も腹をくくった。

「投手の具体的な攻略法は思いつかなかったので(苦笑)。その代わり、打者の分析は相当やりました。各打者について、投げたら危険なコース、逆に投げてもいいコースをそれぞれ洗い出しました」

 広陵の投手陣に度肝を抜かれたが、英数学館も初戦は理想的な投手起用で切り抜けていた。

「組み合わせを見た瞬間、『3回戦を勝つなら末宗の完投しかない!』と思っていました。なので、初戦は何とか末宗を投げさせない、相手に見せない状態で勝ちたかったんです」

 初戦は「秋までは四死球で崩れがちだった」(黒田)という左投手の田中楓大(ふうた)が6回2安打4四死球で踏ん張り、大坪との無失点リレーを完成させ、8−0の7回コールド勝ちした。

 黒田は初戦の翌日に、末宗と2年生捕手の下宮大和のバッテリーに広陵打線の分析結果を伝えた。中軸は変化球攻めに慣れているので、直球を効果的に使うこと、インコースに対応できる打者には、見せ球すらも内角に投げない、構えもしないこと......。穴が開くほど映像を見て洗い出した打者ごとの攻略法を伝え、末宗にはこう補足した。

 タイミングを0.1秒ずらし続けろ──。

「試合で、唯一誰にも邪魔されないのが投手の始動。『その特権を存分に生かせ』と伝えました。高校生なので、どれだけ慎重に、丁寧に投げても失投はある。最悪、ボールが真ん中にいっても仕方がない。でも、ボールを持つ間合いを1球ごとに変えたり、クイックを入れたりして、打者のタイミングを0.1秒ずらしていたら、ホームランが外野フライになる、いい当たりも正面を突くかもしれない。だから、コースに投げ切るか、0.1秒ずらすか。どっちかは必ずやってくれと」

 当初試合は7月19日に予定されていたが、悪天候のため1日順延された。猶予が生まれたが、黒田はバッテリーと追加のミーティングは行なわなかった。試合前にできる手は打ったという自負があったからだった。

 一夜明けた20日。晴天のもと、決戦の火ぶたがきられた。

(文中敬称略)

後編につづく>>

【著者プロフィール】井上幸太(いのうえ・こうた)

1991年生まれ。在住の島根県を中心に中国地方のアマチュア野球を取材するライター。『報知高校野球』、『野球太郎』などの雑誌、『web Sportiva』、『山陰中央新報デジタル』などのウェブ媒体に寄稿中。グラブなどの野球道具への偏愛を持ち、全国のスポーツ店を巡ることをライフワークとしている。

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