ノーシードの英数学館はなぜ絶対王者に勝利できたのか。指揮官が明かす打倒・広陵への綿密な計画 (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

 22年のチームは、前年秋に地区予選を突破し、32校が出場できる県大会に進出。初戦でドラフト候補にも挙がった強打者・田中多聞を擁する呉港に勝利した。が、春は地区予選で敗れ、県大会出場を逃していたこともあり、夏は"ノーマーク"の存在だった。

「組み合わせ抽選が終わったあと、誰に連絡しても、『すごいゾーンを引いたねえ』と言われました」

 英数学館を率いる黒田元(もと)が苦笑いを浮かべながら振り返る。それもそのはず、初戦となる2回戦を突破すると、3回戦で広陵と広島新庄の勝者と激突する組み合わせだったからだ。

 先に触れたとおり広陵は、黒田の言葉を借りると「『頭ひとつ抜けている』どころではない強さ」。この時点で心が折れてもおかしくない組み合わせだが、黒田と選手たちの心持ちは違った。

 英数学館は、4月から専門のトレーナーを招いてのメンタルトレーニングに力を入れている。22年まで阪神を率いた矢野燿大が取り入れたことで話題になった「予祝」などで有名な経営者・大嶋啓介のもとで学んだメンタルトレーナーが、月1回のペースで学校に訪れている。

 黒田が学校のホームページに寄稿したブログに記された「『どうすれば部員が野球部を楽しいと思ってくれるか』『どうすれば部員みんなが幸せになるか』を一番に考え、活動に取り入れることが監督の役割だと思っている」という一文を偶然読んだトレーナーが、黒田宛に「部員を幸せにしたいと言える高校野球の監督は中々いないです」と手紙を送ったことがきっかけだった。

 トレーニング初日は、「人生の差は思い込みの差だ」というテーマで始まった。黒田が補足する。

「自分たちを例に挙げると、広陵、広島新庄といった強豪の名前を聞いただけで、もう『キツイ、勝てない』と思ってしまう。1本のヒットを打たれるだけで、『やっぱ広陵すげぇわ』と殻に閉じこもって、自分たちで2本目のヒットを生み出してしまう。そうやって、自分たちをどんどん下に下に下げていく。それこそが思い込みなんだと」

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