英数学館ナインが指揮官に贈った『広陵を倒したあとの3日間』という経験。「甲子園が目標とはっきりと言えるようになった」 (6ページ目)
「負けたことは悔しいし、監督が納得してはいけないと思うんですけど、それ以上に対戦相手から漂う雰囲気がうれしかったんです。今までは『英数学館か』だったのが、『英数学館を倒すんだ』という雰囲気にガラッと変わっていた。大げさでなく、目から殺気に近いものを感じるくらい。まだまだ力のないうちに対して、ここまで本気で挑んでくれるんだと、周りの見方の変化を実感しました」
【監督の仕事は脚本家】
激動のシーズンを終え、「監督」の役割についての捉え方も変化した。
「今までは監督の仕事は"俳優"だと思っていました。監督が演じて、いろいろなものを選手に与えないといけないと。選手が自発的に『頑張ろう』と思わせることを頑張っていなかった。いま、監督の仕事は"脚本家"だと思っています。選手たちがいい方向に進んでいくように台本を書く、ストーリーをつくる。『演じなければ』と思っていた頃は、悪いことが起きないように、とばかり思っていた。イレギュラーなことが起こるのは勘弁してよ、予定が狂うじゃん......って。
でも、波のないドラマなんて誰も見ない。今は何か問題が起こっても、そこから引き上げる脚本をオレが書くからと思っていて、『何が起きるのか』というワクワクが大きい。監督がきちんと台本を書いて、選手と一緒に進んでいったら、絶対ハッピーエンドになるはずなので」
綿密に計画を練り、順風満帆、予定どおりに事が進めば、良作はコンスタントに生まれる。が、イレギュラーな事態が思いがけぬ方向に好転した時にだけ、"傑作"は誕生する。ボクシング漫画の金字塔『あしたのジョー』で、原作者の梶原一騎と作画のちばてつやで、力石徹の身長の認識が相違し、作中屈指の名場面と呼ばれる壮絶な減量の末に主人公と戦うシーンが生まれたように。
「こう考えられるようになって、『こうやったら夏に勝てるんじゃないか』と台本を書いて臨んだ初めての夏でもありました。選手たちの頑張りで広陵に勝つことができましたが、そのあとは経験がない分、甲子園出場までは描ききれなかった。でも、『広陵を倒したあとの3日間』という、経験していなかった時間を味わえたのは大きい。この3日間を選手たちがプレゼントしてくれたと思っています。秋負けてしまったことは悔しいですけど、次に向けてやりようにはいくらでもあると思っていて」
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