ドラフトで離島の快腕・大野稼頭央の名は呼ばれるのか。調査書は10球団、プロになったら「自分でプランを立ててやっていきたい」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

「5球団くればいいほうだな」と考えていたプロからの調査書は、10球団も届いた。喜びを噛みしめて、1枚1枚書き上げた。いよいよ、運命の日がやってくる。

「高校野球の続きじゃなくて、もう1回イチから野球を始めるつもりでいきます。3年後の自分がどんな体つきになっていて、どんなボールを投げているのか。自分のことなんですけど、他人のことのように遠目で楽しみにしています」

 多くの島民が大野のマウンド姿に希望を見て、期待を寄せてきた。一人ひとりの「がんばれよ」という言葉に背中を押された反面、のしかかる重圧から「逃げたい」と感じた時期もあった。それでも真っ向から立ち向かい、大野はいま新たな地平に立っている。

「島の人を感動させようなんて思ったことはありません。僕らは素で、ただガムシャラにやっていただけです。たとえ口先だけの『がんばれよ』という言葉だったとしても、そうしたひと言が自分たちの力になっていました。内地の人に言われていたら、『無責任になんだよ』と思っていたかもしれませんが、島の人に言われたから力に換えられたのかもしれません。いろんな世界を知って、物事を広い視野でいろんな角度から見られる余裕が生まれたような気がします」

 もし鹿児島実に行っていたら......。そう尋ねると、大野は「たぶんついていけなくて、野球をやめていたんじゃないですか?」と笑った。この夏はひとりの鹿実ファンに戻り、テレビの前で鹿児島実の甲子園での戦いを応援したという。

 10月20日。その日はきっと、大野稼頭央が島中の人々から「がんばれよ」と新たな激励を受ける日になるはずだ。

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