ドラフトで離島の快腕・大野稼頭央の名は呼ばれるのか。調査書は10球団、プロになったら「自分でプランを立ててやっていきたい」

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 10月も半ばに入ろうというのに、名瀬運動公園野球場にはけたたましいセミの鳴き声が響いた。奄美大島の夏は長い。離島のため対外試合の機会が限られる大島高校は、部内の紅白戦を戦っていた。

 控え組のマウンドには、3年生の大野稼頭央が立っていた。

「今日は2イニングしか投げていないので、短いイニングだと調整しにくいですね」

 大野はそう言って笑ったが、2回を投げて被安打0、奪三振2、与四球1の無失点と貫禄の内容だった。得意のカーブやスライダーだけでなく、「最近やっと習得できた」という新球・スプリットで空振り三振を奪うシーンも見られた。10月20日のドラフト会議に向けて、大野は前向きに日々を過ごしているように見えた。

大島高校のエースとして今年春のセンバツ大会に出場した大野稼頭央大島高校のエースとして今年春のセンバツ大会に出場した大野稼頭央この記事に関連する写真を見る

最後の夏は鹿児島大会決勝で涙

 だが、大野は3カ月近く前の出来事を引きずっていた。

「気持ち的に切り替えはできているんですけど、夏の大会の映像を見ると試合のことが蘇ってきて......。決勝戦の映像だけは、いまだに見られないですね」

 離島から春夏連続での甲子園出場を狙った今夏、大島は鹿児島大会決勝戦で名門・鹿児島実に2対3で敗れた。大野は幼少期から「鹿実」のユニホームに憧れ、龍南中時代には熱心に誘いを受けていた。

「一緒に夏の甲子園の優勝旗を獲りにいかないか?」

 鹿児島実の宮下正一監督からそんな誘いを受け、「8割方、鹿実に行こうと思っていた」と大野は振り返る。だが、同じく鹿児島実から誘われていた捕手の西田心太朗が「大高(だいこう/大島高校の愛称)に行く」と聞いて、大野の心は揺れ動いた。

「高校では心太朗とバッテリーを組みたいと思っていたので、『大高じゃないと組めないかな?』と思ったんです」

 西田から「一緒にバッテリーを組みたい」と打ち明けられた大野は、大島高校への進学を決意する。「今までの悩みは何だったんだ?」と思うほど、心がふっきれていた。この時から、大島高校の快進撃は始まった。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る