2020.08.24

「野球はもういい事件」の
ドラフト候補の今。恩師は信じて待つ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

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「洗濯機に入れて回すとこまでは別にいいんですけど、干すのがだるいっす。僕、干し方がへたなんやと思います。僕の服、みんなだるっだるですもん」

 落合秀市はそう言って肩を落とした。ひとり暮らしを始めて5カ月あまり。落合は「親のありがたみを感じるっすね」とつぶやいた。

関西独立リーグ・兵庫ブルーサンダーズでプレーする落合秀市 いつものように、笑いを誘っているのか本当に落ち込んでいるのかわかりにくい、どこか投げやりな口調。それが落合の平常時でもあるのだが、その性分が仇となって昨秋はちょっとした騒動を起こしていた。

 2019年10月17日、プロ野球ドラフト会議で、和歌山東高の本格派右腕・落合は上位指名候補に挙がっていた。なかには「奥川恭伸(当時・星稜/現・ヤクルト)とポテンシャルは遜色ない」と高く評価するスカウトもいた。実際に上位指名を検討していた球団もあったという。

 だが、結果的に落合の指名はなかった。補強ポイントと合わず指名を見送った球団がある一方、落合の内面的な要素を疑問視して指名を回避した球団もあったようだ。

 ドラフト会議後、落合は高校関係者に「野球はもういいです」と話し、メディアに「落合、野球断念」とセンセーショナルに報じられた。

 だが、落合は自分の言葉の重みを自覚していなかった。当時を本人が振り返る。

「その時の気分で発言してしまうので、そこが子どもなんやと思います」

 ドラフト前から「是が非でもプロ野球選手になる」という意欲は希薄で、「行けたらいいな」くらいの感覚だった。指名漏れに終わった瞬間も「何も思わんかったです」と落合はこともなげに言う。さしあたって進路をどうしようか考え、「もう就職でええか」という結論に至った。それが「野球はもういい」発言のすべてだった。

 にわかには理解しがたい感覚かもしれない。だが、落合は高校に入学した時点で野球を続けるかやめるか迷うような選手であり、大志を抱いていたわけではない。