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「野球はもういい事件」の
ドラフト候補の今。恩師は信じて待つ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 昨年6月、落合と膝を突き合わせてじっくりと語り合った時間があった。

 落合は趣味のBMX(バイシクルモトクロス)やスケードボード、ハマっている漫画『キングダム』、ファンキーな性格の父、兄の話を生き生きと話してくれた。ドラフト候補のインタビューとは思えない話題の数々に、何度も爆笑させられた。そして、この規格外のキャラクターはアマチュアの枠には収まらず、NPBという最高峰の舞台でこそ引き立つだろうと確信した。

 同時に、この奔放な逸材と日常的に顔を合わせて指導する者の苦労を思わずにはいられなかった。

 和歌山東の米原寿秀監督、南佳詞部長ら指導陣が内面的に幼い落合をあの手この手で野球に向き合わせ、なんとか3年間を全うした結果、落合はドラフト候補に浮上していた。そもそも野球への執着心のある選手ではなかったのだ。

 だが、ドラフト会議からしばらく経ち、冬になると落合は野球を続ける方向に翻意する。やがて関西独立リーグ・兵庫ブルーサンダーズへの入団が発表された。

 落合は心変わりの背景をこう説明する。

「やっぱりお金を稼ぎたいじゃないですか。就職はいつでもできるけど、自分ならお金を稼げるのは野球くらいしかない。(NPBのドラフト指名解禁まで)大学なら4年、社会人なら3年かかることを考えると、1年でいける独立リーグのほうがいいんかなと」

 1年間、やりきる。それでドラフト指名されなければ、野球はやめよう。落合はそう決めた。

 だが、高校時代の落合を取材した者としては、不安を拭いされなかったのが本音だった。

 まず、1年間やり通せるのか。親元を離れて、寮ではなくひとり暮らしの生活に音を上げるのではないか。よしんば生活面はなんとかなっても、脇目も振らずに野球に打ち込めるのか。

 高校時代に比べれば練習量は落ち、NPBと比べれば選手の技術レベルは格段に落ちる。「この環境で自分はプロになれるのか?」と気持ちがくじけてしまう可能性は十分にある。

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