「野球はもういい事件」のドラフト候補の今。恩師は信じて待つ (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 落合という選手を見ていて、つくづく感じる。才能とは残酷なものだ、と。グラウンドで懸命に努力している者が1年かけて習得したことを、才能ある者はあっさりと一瞬でこなしてしまう。そんな話をしていると、米原監督は深くうなずいて「人間は平等やないからね」と言った。

「人間にはそれぞれ、自分を生かせる道がある。落合の場合は野球ですよ。あいつから野球を取ったら何が残るか。それにいつ気づくか。これまでいろんな人がアプローチしても気づかんかったのだから、あとは自分で気づくしかない。こっちはひたすら待つしかない」

 天分──。天から授けられた才能と言えば、本人の人格を無視した乱暴な決めつけと思うかもしれない。だが、落合秀市という投手の才能を前にすると、「なぜこの才能に身を捧げないのか」というもどかしさを覚えてしまうのも事実だ。

 プロ野球とは、誰もが目指せる世界ではない。もし、落合が自分の天分に気づき、少しでも野球に向き合えるようになったら。その時、落合は野球に人生を救われ、私たちはとんでもない投手の誕生の目撃者になるかもしれない。

 落合が本当の意味で野球にしがみつく日はきっと来る。そう信じて待っている人は、決して少なくはない。

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