レジェンド始球式に登場する金村義明。
荒木大輔と戦ったあの夏の真実 (3ページ目)
3回戦の相手は、前年準優勝の早稲田実業だった。当然、マウンドには荒木がいた。
「人気者だった荒木に対して、『年下のピッチャーに負けるわけにはいかない。絶対に勝ってやる』と思ってました」
地元・兵庫の報徳学園と優勝候補の早実の対戦には、5万5000人の観衆が甲子園に詰めかけた。試合は両エースの投げ合いで進む。金村は絶妙なピッチングで早実打線を6回までわずか1安打に抑えたが、対する報徳学園もヒットは2本だけ。勝負は終盤にもつれ込んだ。
初めに主導権を握ったのは早実だった。7回表、3連打にバントを絡めて3点をリード。その裏、報徳学園が金村のライト前ヒットでチャンスをつくったが、後続が荒木の丁寧な投球でかわされてしまった。8回の表裏に両チームが1点ずつ入れ、4-1で最終回を迎えることになった。
9回表の早実の攻撃を3人で終わらせた金村は、マウンドで荒木を待っていた。その裏の攻撃は四番打者の金村から。もしかすると高校時代の最後の打席になるかもしれない。
「荒木がマウンドまでくるのを待って『最後の打席、勝負せえよ!』と言ってボールを投げて渡しました」
祈るような気持ちを込めたボールを受けた荒木が、黙ってうなずいたように金村には見えた。
9回裏、報徳学園の攻撃。金村がフルスイングした打球はセンター方向に飛んだが、名手のセカンド・小沢章一がそれを捕って一塁に送球――際どいタイミングになったものの判定はセーフだった。
「完全にセンターに抜けたと思ったら小沢が捕って、間一髪でしたよ。荒木は今でも『あれはアウト』って言うけどね。そのたびに『審判の判定は絶対やぞ』と返してます(笑)」
荒木は五番打者にデッドボールを与えてノーアウト一、二塁。その後に2本の二塁打が出て同点に追いついた。
「最終回を迎えた時点では、『もう負けた』と思ってましたよ。でも、あそこから追いつくのが報徳学園の伝統の力でしょうね。それしかない。ろくにヒットを打ったことがなかった選手があの場面で打つんやもん。オレのワンマンチームだったけど、『野球はひとりではできない』と勉強させられた試合だった。それまではチームメイトを全然信用してなかったから」
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