レジェンド始球式に登場する金村義明。荒木大輔と戦ったあの夏の真実 (4ページ目)
4-4の同点になって、勝負は10回へ。荒木にとっては、甲子園で経験する最初で最後の延長戦だった。金村は10回表の攻撃を3人で抑え、マウンドでまた荒木を待った。
「オレはまた『勝負やぞ!』と言いました。その言葉の意味は、『ストレート投げてこいよ』でした。そう言えば、『男としてストレートを投げてくれやろう』と考えて、インコースのボールを待ちました」
前の打席では最後にホームランを打ちたいという欲があったが、この打席ではただ「勝ちたい」としか考えていなかった。
「インコースにナチュラルにシュートするストレートがくると信じて、体を開きながら思い切り引っ張りました。それがレフト線の二塁打になった。荒木はもうフラフラやったけど、変わらず淡々と投げていましたね。メンタルが強かった」
ツーアウト、二塁。セカンドベース上にいる金村がホームを踏めばサヨナラだ。
「完全に負けてた試合を奇跡的に追いついたから、もう負けるはずがないと思ってました」
五番・西原清昭の打球はレフトの頭を超えた。二塁ランナーの金村は大きなガッツポーズをしながらホームベースを駆け抜けた。
「そのときの気持ちはうれしいのひと言。あのときのガッツポーズ見てもらったら、それがどれほど大きかったかがわかるやろう。"天にも昇る"っていうのはああいう気持ちやろうね」
顔で負けても野球では負けない
それまで金村のなかにあった荒木に対するジェラシーは、勝利の瞬間にきれいになくなった。
「あれだけ騒がれて、女の子にもキャーキャー言われて、オレはジェラシーの塊だったよ。でも、試合に勝ったらどこかに行ったね。だって、荒木ほどの人気者はもう甲子園にはいないんだから。それと同時に、『あの荒木に勝った。早実をやっつけた』という自信のようなものも湧いてきた。振り返ってみれば、早実との試合が事実上の決勝戦だったと思う。
あのころ、はっきり覚えてはないけど、『荒木に顔で負けても野球では負けない』と言うてたらしいね。オレは関西人やから『荒木くんについてどうですか?』と記者に聞かれたら、そんなふうに答えるやろね。100パーセント間違いない。『オレのほうが上やで』と言いたかったんやろう」
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