「箱根駅伝を走れなかった者たち」は「走った者」を超えていけるか 「山の神」神野大地が率いる新チームに加入した4人の新卒選手 (4ページ目)
【中央大の吉居大和先輩をうらやましいと思っていた】
中央大から加入した山平怜生は、ADIDAS TOKYO CITY RUN 2025の5kmのロードレースで、日本人トップ(全体3位)の13分44秒をマークし、上々のスタートを切った。
「練習が順調にこなせていたので、しっかり走れてよかったです」
山平がMABPに入社を決めたのには、ふたつの理由があった。
「小さい頃から箱根駅伝を見ていたんですけど、2015年に神野さんが5区で区間新を出したのを見て、すごいなって思ったんです。僕からすればヒーローみたいな存在で、その神野さんから声をかけていただいたのが素直にうれしかったんです。あと、MABPは新しいチームなのでこれから結果を出していけば有名になって、目立てると思ったので(笑)」
その目立てる最大のチャンスだった箱根駅伝は、出走できずに終わった。
「箱根は3年の時に9区を走る予定でしたが、体調不良でダメになり、4年の時は、チーム内でも一番コンディショニングに気をつけていたのですが、10日前にインフルエンザを発症して出番がなくなりました。情けないし、悔しいし、最悪な気持ちでした。でも、一番悔しかったのは2年の時ですね。全日本で2区を走って、(藤原正和)監督から『箱根も考えているから』と言われ、走る気でいたんです。でも、最後に外されて、もう走るのが嫌になって3月ぐらいまでまったくやる気が起きませんでした」
中央大は部員数が多いうえにレベルが高く、駅伝メンバーに入る競争にエネルギーを割いていた。だが、今は心持ちが違う。
「実業団は人数が少ないので自分がやらないといけないと思っています」
そこにはMABPを選んだ理由とリンクするところがある。
「大学時代、吉居(大和/トヨタ自動車)さんとか活躍している選手を見ると、スポットライトを浴びて、ファンもたくさんいますし、うらやましいなと思っていました。今は『自分も』という気持ちが強いです。SNSやYouTubeなどで自分のことはもちろん、陸上の魅力も発信していければと思っています。競技では数年後にマラソンに移行し、やるからには世界で戦える日本のトップ選手になっていきたいです」
言葉の端々から、たぎるような向上心を感じる。目立つトッププロは結果と発言で注目されるが、山平はその境地にたどり着けるか、楽しみだ。
4名の新卒選手にはやる気がみなぎっている。「箱根を走れなかった者たち」が「箱根を走った者たち」を超えていけるか。チームの目標達成には、彼らの熱量と貪欲さが欠かせない。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。
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