「箱根駅伝を走れなかった者たち」は「走った者」を超えていけるか 「山の神」神野大地が率いる新チームに加入した4人の新卒選手
MABP本格始動ルポ(後編)
練習をする選手たち。チームの最初のターゲットは11月3日の東日本実業団駅伝になる photo by Kanta Nakamura
【國学院大で競技生活を終える予定だった】
プレイングマネージャーとして箱根駅伝「三代目・山の神」と呼ばれた神野大地(31歳)を迎え、この4月に本格始動した実業団チーム「MABPマーヴェリック」。2027年のニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)出場を目標に掲げる同チームには4名の大卒新人選手がいる。
いずれも駅伝の強豪校出身で、戦力的にはもちろん、今後のスカウティングにおいても非常に大きな存在だ。ただ、4名とも能力は高いが、箱根駅伝を経験していない。そのことを意識しているのか、彼らの言葉からは「箱根を走った選手には負けない」というギラギラしたものが感じられる。
國學院大から加入した板垣俊佑は、大学で競技生活を終える予定だった。
「僕は大学で結果を残せず、箱根も走れなかったので引退しようと考えていました。その時、神野さんからお話をいただいたのですが、どうしようかかなり迷いました。ただ、親に『せっかく声をかけてもらったのだから、続けてもいいんじゃない』と言われたのもありますし、何より自分がチームの創立メンバーの一員になれることに魅力を感じ、MABPに行く決心をしました」
高校時代、長い距離はそこまで得意ではなかったが、大学で距離を踏むことで長距離への抵抗がなくなり、3年時には箱根駅伝の登録メンバー入りを果たした。だが、厚い選手層に阻まれて出走には至らず、4年時はメンバー入りも果たせなかった。
「4年の時は、下の代の選手たちをはじめ、全体のレベルがすごく上がって箱根のメンバーにすら入れなかった。その悔しさは今もあります。だから、箱根を走った同期には負けたくないですね。平林(清澄/ロジスティード)は僕らの代では頭ひとつ抜け出ていますが、そこに追いつけるようにがんばっていきたいです」
5000mの持ちタイムは14分00秒93、10000mは28分50秒75だ。今春からのトラックシーズンでは、それぞれの更新を自らに課し、大学時代には走れなかった駅伝の舞台を目指している。
「東日本実業団対抗駅伝はあまり見たことがないのでわからないですが、ニューイヤー駅伝は地元の群馬を走るので、両親や友人が応援してくれると思います。大学時代に見せられなかった駅伝を走る姿を見せたいですね。(出場するなら)つなぎ区間になると思うので、区間賞を取るくらいの気持ちでいきたい。自分の持ち味は、後半につらくなってから粘れるところなので、そこをレースで見せることができたらと思っています」
引退を撤回して競技を継続した決断は正しかったのか。結果で示す覚悟だ。
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著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。