MGCで一山麻緒に対抗するのは? 鈴木亜由子ら有力選手が争うパリ五輪出場権の行方 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by REX/アフロ、アフロスポーツ、築田純/アフロスポーツ

【細田あいなど有力選手はほかにも】

 細田あいも(エディオン)上位争いに絡んでくる選手のひとりだ。

 2019年にはケガもあり、心と体が一致せず、一度は引退も考えた。だが、「走りが見たい」という周囲の期待を実感することで翻意し、そこからはパリ五輪を目指して練習を積んできた。昨年10月のロンドンマラソンで2時間21分42秒の自己ベストを出し、今年3月の東京マラソンでは2時間22分8秒で日本人2位と好調を維持。だが、春からは故障や体調を崩すなどで「自分の思う様な流れできていない」という。その後、ホクレン深川大会の3000mに出場してレース勘を取り戻し、夏合宿で距離を踏んで練習をこなしてきた。「4年後なんてどうなるかわからない。今回、パリを狙える位置にいるので、手を伸ばしたいと思います」と今回のMGCにかける気持ちは非常に強く、強気の走りを見せられればパリ行の切符を手にできるだろう。

 さらに加世田梨花(ダイハツ)も有力選手のひとりだ。ブダペスト世界陸上のマラソンは19位に終わったが、昨年9月のベルリンマラソンでは2時間21分55秒の自己ベストを出した。小柄ながらストライドの大きなフォームで、6月の日本選手権5000mでは15分21秒722位になり、スピードを磨いてきた成果が出た。世界陸上から1か月半後のMGCでどこまで力を発揮できるか。

 上杉真穂(スターツ)も注目すべき選手。今年1月の大阪国際女子マラソンでは、松田の背中を追い、2時間22分29秒の自己ベストで2位に入った。ブダペスト世界陸上の参加標準記録をクリアしたが選考されず、MGCにかけてきた。7月はホクレンでトラックを走って調子はもうひとつだったが、本番までにどこまで上げられるか。大阪国際女子で見せた「攻めの走り」ができれば先頭集団で熱いレースを見せてくれるだろう。

 今回のMGC2枠を争うという点でいえば、松田瑞生(ダイハツ)と佐藤早也伽(積水化学)の欠場は大きい。ふたりともブダペスト世界陸上からMGCという流れで五輪の出場枠を獲得することを目標としていたが、松田はケガのため、佐藤は体調不良により、断念せざるをえなくなった。

 MGC出場予定選手の持ちタイムのトップ10は、一山、安藤、細田、加世田、鈴木、上杉、前田穂南、前田彩里(ダイハツ)、松下菜摘(天満屋)、渡邊桃子(天満屋)の順になる。2時間20分52秒のタイムを持つ松田は一山に次いで2番目、2時間22分13秒のタイムを持つ佐藤は鈴木と上杉の間に入る。

 単純に強力なライバルであり、マークすべき選手が少なくなったことになり、優勝を狙う選手にとっては心理的な負担が減り、より自分の走りに集中できる。また、タイムではパリが遠かった選手も「ワンチャンあるかも」と奮い立ち、思い切ってチャレンジできる。マラソンは何が起こるか分からないだけに、ニューヒロインが出てもおかしくはない。

 レースでは国立競技場へトップで入っていくというポジティブなイメージをしている選手が多い。それを実現できるのは、果たして誰になるのだろうか。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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